限界
「咲っ!!」
彼女の名を呼んで思いっきり抱きしめる。
彼女は驚いて俺の腕の中で体を硬直させているけれど、もう自分を止められない。
「咲、会いたかった!ずっと、こうしたかったんだ!」
俺は咲に幾度も口づけして、一層彼女をきつく抱きしめた。
「た・・きざわ・・・くん・・」
彼女は切なそうな声をもらして、うるんだ瞳で俺を見上げる。
俺は咲の顔にキスの雨を降らせながら、彼女のブラウスのボタンを外していく。
いやいやとかよわい力で抵抗する彼女を無視して、ブラウスをはいでいく。
もう自分を抑えられない。
彼女が涙を浮かべて恥ずかしそうに胸の前で交差している腕をつかみ、無理やりその腕を開かせる。そして首筋を強く吸い上げた。
「あ・・・」
彼女がもらした声の甘さに、自分の中の何かがはじけた。
「咲!!」
彼女をベッドに押し倒して、自分もシャツを脱ぐ・・・
・・・というところで、はっと目がさめた。
一人っきりの部屋。
「夢だったか・・・」
頭をかきかき俺はベッドに起き上がった。
咲と離れ離れの日々がもう3ヶ月続いている。
俺、相当、キテルらしい。
咲に会いたい。咲に触れたい。咲に・・・
そんな思いが、あんな妄想を生んだわけか。
いっそ、会いにいこうか。
でも、まだ、俺は、俺のすべきことを果たしていない。
そんな中途半端な俺のまま咲に会いに行くなんて、それこそ、咲に対する侮辱のような気がする。今、俺が挑んでいる戦いに、咲を撒きこんでしまうリスクだってある。
「でも、限界かな、もう」
自分の唇に触れてみる。
夢の中で幾度も咲にくちづけた。その感触があまりにもリアルで、夢の中の出来事なのに、生々しくて。
「ホント、俺のジョニーだって、限界だよ」
俺は苦笑しながらシャワーを浴びにバスルームへ向かう。
今度彼女に会ったら。
こんなに想いを募らせたまま、彼女に会ったら。
もう嬉しさと愛おしさで、俺は自分を抑制できないんじゃないか?
キスだけなんて、とうてい我慢できそうにない。
鏡に映った自分の顔。
「まいったな」
我ながら、ものすごく情けない顔してる、俺。
咲。
咲は、こんな俺でも受け入れてくれるかい?
こんなナサケナイ俺でも、信じてくれるかい?
今度会ったとき、キスだけでとまらなくても。
君は受け入れてくれるかい?
(滝沢くん・・・)
咲が俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。
「あ~」
ため息をつく。
「ほんと、ヤバイよ、俺」
俺は思いっきり冷たいシャワーを頭から浴びた。