食事風景
それでも気にせずに、コンウェイは食事を続けようと口をあける。スパーダの視線は相変わらずであり、やり辛さを感じながらもコンウェイはサンドイッチを口に運んだ。しゃく、とレタスとタマネギを噛む音がやけに大きく聞こえる。と言うのも、二人が食事の挨拶を除いて先程から一言も発しないからだろう。
無言の食事が続く。チーズが美味しいな、良い塩梅の塩見と酸味だ。クリーム状のチーズが溢れないよう、コンウェイはサンドイッチを傾けながらバランスをとる。
「君は食べないのかい?」
相も変わらずコンウェイを見ているだけのスパーダに聞く。既に目の前には皿に盛られた温かいカツサンドもオレンジジュースも用意されているのに、スパーダは手をつけようともしない。それ所か、食事なんてそっちのけで、姿勢も変えずにコンウェイだけをただ見ている。
「あー……ま、後でな」
そう一言答えるだけで、また固く口を閉ざす。
ふうん、と相槌を返して、コンウェイはまた口を開けた。
会話の必要がないのならと、コンウェイは行儀悪くもテーブルの上に本を開いた。右手にサンドイッチ、左手でページをめくる。コンウェイは視線など無視するように、文章に目を落とす。
そうしてしばらくたってから、スパーダが口を開いた。
「口元」
ただ一言呟き、しかしコンウェイは気付くのが遅れた。本に集中しすぎていたせいだろう。コンウェイがその端正な顔を上げる。
「……え、何?」
「パン屑ついてるぜ」
そこでようやく、スパーダはコップを持ち上げた。濃い鮮やかな橙色のそれが揺れる。コンウェイは左手で口元を確かめるが、スパーダは更に指摘した。
「そこじゃねえよ。もっと下」
オレンジジュースを大きく一口飲み込む。コンウェイはようやく指先でそれを探し当て、はらはらとほろった。スパーダはそれを見て満足したようで、口元に笑みを含みながら、やっとカツサンドに手を伸ばした。コンウェイはただ一言、ありがとうとだけ返して、また本に薄い藤色の視線を落とした。
ざく、と衣の切れる音と、肉を噛みちぎる音。コンウェイが発するよりも豪快なスパーダの食事の音が辺りに散らばる。
「ガキっぽいな、あんた」
「ものを口に入れたまま喋るのは子供っぽいとは言わないのかな」