絆
ニューヨークから日本に帰ってきて、空港で飯沼千草に無理やり連行された時、咲が何者か聞かれて、滝沢は即答した。
「ガールフレンドです」
でも、結局、咲は追いやられて、滝沢だけ飯沼たちに連れていかれてしまったが。
(滝沢くん、私のこと、ガールフレンドって・・・)
滝沢は記憶を取り戻したんだろうか、彼がニューヨークへ消える前、二人で過ごした日々の記憶を。あの雨の夜、咲にキスした記憶を。
廊下に残された咲は、滝沢のことを心配しながらも、彼が自分のことを、自分との日々のことを思い出してくれたのかと嬉しかった。
しばらく廊下でうろうろしていると、飯沼千草がドアを開けて、その後から滝沢がむずかしい顔で出てきた。
「滝沢くん!」
すぐに駆け寄る。
「ごめん、こっから先は一緒にいけないみたいだ」
「えっ・・・」咲は一挙に気持ちがしぼむのを感じた。
「で、さ、咲に頼みたいことあるんだ。俺のお袋探してくんない?」
滝沢は声を押し殺して、咲に事情を説明した。
「どう?頼まれてくれる?」
「うん!やってみる。」
「サンキュー。じゃ。」
片手を挙げて去りかけた滝沢だったが、すぐに「いけない、忘れるところだった!」と言いながら、咲のところへ戻ってきた。ポケットから何かを取り出して、咲の首にかける。
「これ・・・ゴールデンリング・・・」
ニューヨークで一緒に乗ったメリーゴーランドのゴールデンリング。皮紐が結ばれ、ペンダントになっていた。滝沢が自分で作ってくれたのだろうか。
「うん、二人でニューヨークにいた記念!」
(確かに、俺と咲が、ニューヨークで一緒の時間を過ごしたアカシだよ)
滝沢はゴールデンリングを嬉しそうに見ている咲を愛おしげにみつめた。
「今は、これしか、咲に渡せるものがないけど・・・」
「ううん、ありがとう、滝沢くん」
滝沢は咲に指を絡ませて言った。
「あのメリーゴーランドで咲と二人で過ごした時間・・・。楽しかった。できれば、ずっと、俺、咲と一緒にあそこにいたかったんだけど・・・」
「滝沢くん・・・」
「咲と一緒にいると、大切なものや、忘れたくない時間が、どんどん戻ってくるんだ・・・」
「うん・・・」
滝沢は咲に絡めた指をぐっと一瞬握った。
「そのゴールデンリングを咲が持っていてくれると、俺、必ず咲にまた会えるって、安心できるんだ。これ、俺たちのキズナのアカシだね」
「うん・・・でも、会えるよ、また、すぐ」
「うん、そ、だね」
(俺がこれから連れてかれるところは、一体どんなとこなんだか・・・。でも、咲を一緒には連れていけない。危険すぎる。)
滝沢は意を決したように、咲の手に絡めていた指をほどいて、笑顔でいった。
「じゃ、咲、また連絡するから!気をつけてね」
「うん、滝沢くんも!」
しびれをきらしたように滝沢が来るのを待っていた飯沼のボディーガードらしき男たちが「早く来なさい」と滝沢の腕を取る。
滝沢はもう一度振り返って、咲を見た。
心配そうに自分を見ている咲。
(咲・・・)
でも、咲の胸にはゴールデンリングが光っている。その輝きを見ると、滝沢は必ず咲とまた会えると、必ず彼女のところに戻ってこれると、確信することができた。
(俺をニューヨークまで探しにきてくれた咲のためにも・・・黒幕の正体、暴き出してやる!)
滝沢は咲を見つめたまま、ボディーガードたちに車へと引っ張られていった。