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『Carousel』 本文サンプル

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「僕は」
「俺は」
重ねるように、告げられた。
「ここまで来たお前を、離すつもりはないぜ」
そういいながら、急に手を引かれた。
「ちょ・・・、ちょっとまってくだ・・・」
先ほどとは比べ物にならないほど、強い力でぐいぐいと引っ張られた。あっと言う間に、開いた扉から中へと連れ込まれる。
いざとなれば振り払える。
そう思っていた手は、見事に予想を裏切った。
「待たない」
バーナビーの背中で、ドアが無情に閉じる音がした。まるで、監獄にでも閉じ込められてしまったかのような重い音を響かせて。
「ひとつだけ、尋ねさせてくれ」
バーナビーの心の内を知っているかのように、彼はひとつだけ、を強調した。けれども、それが逆にバーナビーの背筋を凍らせる。
「…僕が、嫌だといったら?」
嫌だ、という勇気はなかった。ここまできて、そんなこと。告げるタイミングが幾度となくあったはずなのに、それを逃してきたのは、紛れもなく自分のせい。
「僕が、貴方の言葉を知りたくない、と言ったら?」
・・・答えは、聞くまでもなかった。
「俺は」
ゆっくりと、彼がバーナビーを掴んでいた手を離す。そして、部屋の中央で立ちつくすバーナビーに向けて、ゆっくりと振り返った。
見つめてくる視線を、遮ってしまいたかった。
何か言おうとする気配を察して、その動こうとする唇に待てをかけたくなるほど。
「俺はお前に、謝るべきだと思っている」


言葉の意味は、一歩どころではなく、数歩遅れて届いたかのようだった。


否、もしかしたら言葉の意味すら、正確に理解できなかったのかもしれない。何を、とか。なんで、とか。様々な思いが交錯する中から、それでも何かを発しようとするバーナビーに、目の前の彼は、只々苦みの残る優しさを滲ませて佇むだけだった。
あの夜のこと。
彼が続けて口にした言葉に、きっと彼はバーナビーが身体を硬くしたことに気がついたに違いない。それでも、彼が言葉を止めなかった。言い含めるように、言い聞かせるように、ゆっくりと紡がれていくものをバーナビーは受け止める術を持っていなかった。



(中略)



「――ったく、分かりきった嘘つくんじゃねぇ」
倒れ込んだ先、彼の両腕が待ち構えていた。良く分からないまま、あっと言う間に腕の中に収まっていた。
「…っ、なにっ」
突然の展開に、ついていけずバーナビーは彼の腕の中から逃れようともがいた。
「はな・・・離してくださいッ!」
嫌だ、嫌だ。
こんな、同情を誘ったみたいな収まり方。まるで我儘を言うバーナビーにしょうがなく虎徹が従ったような、そんな成り行きなんて。
ちっとも求めていない。
「僕は貴方と・・・対等でいたいんですッ!」
こんな宥め方、本当に対等なバディならしない。
「僕は貴方にこんな――・・・」
「いいから、黙れ」
彼の腕に込められる力が一層強まった。掻き抱くように抱き締められ、互いの身体がより密着する。
暖かく、力強いものに包み込まれてバーナビーの喉がひくりと鳴った。
耳元で、深く、虎徹がため息をついたのが感じられた。
「なんでこうなるんだろうな・・・」
その言葉に身体が強張る。彼に迷惑をかけていることで、彼がそれを負担に思ってるなら。
「頼むから・・・泣かないでくれよ」
バーナビーの後頭部に彼の手が当てられた。広い掌が包み込む。
「お前に泣かれると、ほんとどうすればいいのか困っちまう」
「――ッ」
そんなことを言われたら、余計に涙が止まらなくなってしまう。この彼の体温を感じていると思うだけで、何もかも忘れて緩みそうになる心を。これ以上、強く保っていられなくなる。
だからせめて、必死で嗚咽だけは堪えようとする。けれども、それすら上手くいかなくて。大きく震える肩から、きっと彼にも振動が伝わっている。
そう思うだけで、もう。
――やるせない気持ちしか心に湧いてこなくなる。
一人でも平気だと、ずっとそう言い聞かせてきて。それで良かったはずなのに。
彼から告げられる言葉に、一喜一憂して。些細なことに過剰反応して結果、彼との距離を測り損ねて。
自分でも、こんな自分が嫌になる。
「――優しく、しないでください」
堪える嗚咽と共に、吐き出した言葉は擦れていた。
「貴方の優しさを、僕は勘違いしてしまいそうなんです」
この優しさは、彼の性分だ。
誰にでも与えられるもので、自分だけが特別じゃない。
そう言い聞かせているのに、やっぱり勘違いしてしまいそうになる。
「僕は貴方と――・・・」
「優しくするのは、お前だからだ」
ふわりと、おでこのあたりに軽く何かが触れた。