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Weird sisters story

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CAT




『運命』なんて言葉はキライだ。



だってそれは、悪魔の顔した天使が運んでくるプレゼントだから。


     CAT



軽やかな鈴の音、そして小さな「ニィ」という鳴き声に足を止めた。
横を見れば植え込みの中に器用に納まっている子猫が一匹。
澄んだ青が、こちらを見て何か物言いたそうな表情をしている。
無言のまま一歩だけ近づくと猫はサッと飛び降り、数歩走った後振り向いてまた「ニィ」と鳴いた。
何となく「ついて来い」と言ってる気がして、どうせ今日は何もする事が無いからと、レイはその後を追った。
猫は迷う事無く、しかし時折こちらを振り返りながら大通りを離れ路地裏へと進んで行った。
見失わないように気を付けながら行っていた筈だったが、とある角でパッタリ見失ってしまった。
だが代わりに、少年ヒトが居た。
路地の塀の上に屈みこんでいたその少年の瞳は、赤。
驚いたような表情をしていた。多分俺も、同じような顔をしていたのだろう。
直ぐに目元を緩めた。
「こんちは」
笑うと、より幼く見える。
「アンタ、ここの街の人?」
言いながら塀を蹴って飛び降りる。
路地に溜まった埃が少しだけ宙に浮く。
「俺、今日ここに引っ越してきたんだ。ホラ、あの赤レンガのマンション。見えるだろ?」
ああ、そういえば空き部屋が一つあったな、とレイはさして必要も無い記憶を掘り起こした。
「アンタ、今何してた?………ってか、人の話聞いてる?」
一向に喋らない事に不信感を抱かれたらしい。いつもの事だ。
赤い瞳が覗きこむ様にして近づいてくる。
「ネコを、追っていた」
「ペット?」
「いや、多分野良だ」
やっと返ってきた答えに「ふぅん」とだけ言い、そして何か思いついたように顔を上げた。
「今暇だろ?俺、まだこの街に慣れてないんだ。案内して?」
笑顔の似合う奴だと思うと同時に、レイは首を縦に振った。



「レイー!おはよ〜」
カランと戸の開く音がしたと思ったらコレだ。
カウンターの中でグラスを拭いていたレイは朝っぱらからハイな客に顔をしかめる。
「まだ営業時間帯ではないが?」
「いいじゃん。俺飲みに来たんじゃないし」
「食べに来たんだろう。どちらにしても同じ事だ」
軽く睨むと、ムスッと膨れた。
シンと名乗った少年はあの日から、何かとレイに構ってきた。
例えば、買い物に付き合わされたり、部屋の鍵をなくしたとか言ってきたり、そして今日もまた。
「シン、ここはバーだ。レストランではない」
朝起きたらレイの勤めるバーに入り浸り、あまつさえ朝食を注文するのが最近のシンの日課だ。
淡々と告げるレイに対しての文句は、奥から出てきたこのバーの主人によってかき消される。
「いらっしゃい。今日は?」
「トースト!苺ジャムで!!」
もはや当たり前のように準備を始める主人にレイは軽く眩暈を覚える。
いくら従業員のレイが注意をしようが、マスターがこれではどうにもならない。
大人しく、棚の陳列に勤しむ事にした。
だがそんなレイの背中に好奇心の視線が刺さる。
「レイ、今日はヒマ?」
「暇かどうか、見れば分かると思うが?」
要するに夜間営業のバーでありながら朝から出なければならない程忙しい、と言いたかったのだが。
「じゃ、ヒマなんだろ?な、どっか出かけよ!!」
「何を馬鹿な…」
「いいじゃないか。行ってきなさい」
皿にトーストとジャムを盛り付けた主人が戻ってくる。
レイの右肩をポンと叩いて付け足した。
「レイは同年代の子みたいに遊ばないからなぁ。心配してたんだ、私は」
「…マスター」
呆れと、不審、更に他の感情も言外に含めて呼んだ。
しかし嬉々とした瞳が返ってくるだけなので、レイは諦めて出かける支度をすべくカウンターを出た。



今日は絶好の日和だった。
長めの黒いコートに身を包んだレイは端から見ればかなり大人びて見える。実際シンは最初レイだと気付かなかった。
「何処へ行く?」
「えぇ…と、アレ!」
前を歩くシンは指差したのは、今年できたばかりのテーマパーク。
レイはさっそく帰りたい気分に追われた。
人込みが苦手なのだ。
だがシンの嬉しそうな顔を見ているとどうも帰れそうに無い。
仕方なく、レイは足を進めさせた。



昇ったばかりだった太陽が一日の役目を終え沈む頃、ようやくシンを畳み込む口実が出来た。
「シン、そろそろ帰らないと」
バーは夜間営業。いつもならもうとっくにカウンターに入っている時間帯だった。
「あ―――…」
釈然としない返事をするシンに半ば呆れる。
あれだけ乗りまくったクセにまだ遊び足りないというのか。
下で待っていると言ったレイを無理やり乗せ、これでもかというくらい絶叫マシンに付き合わされたのに。
ただ上がって落ちるだけの、どこがおもしろいのか理解し難い。
入り口に向かうレイの裾を、シンが握り締めた。
「最後!最後に、もう一つだけ…」
指した先には大きな観覧車。
あれだけ大きいのなら一周するのにかかる時間も容易に想像でき、レイは軽い頭痛を覚えた。
「最後、だぞ」
「うん、最後……」
シンは、握った手を離さなかった。
営業スマイルを浮かべる係員に先導されゴンドラに乗り込む。
二人だけだとかなり広く感じ、今までのイメージと少し違って驚いた。
「レイ!ほら!さっき俺たちが乗ったやつ!!」
視線をあちこち動かしながらシンは窓にへばりついている。
軽く外を見ると既に日は落ち、星が少しずつ輝き始めていた。
「…?シン?」
いつの間にか静かになった彼を不思議に思い、声を掛けるが返事は無い。
外を向いているためどんな顔をしているのかも分からない。
「俺…誰かとこういうふうに遊んだの、初めてなんだ」
珍しく、落ち着いた声が聞こえた。
レイは目を伏せながら答える。
「俺もだ」
驚いたシンが振り返る気配がする。
「今日は、楽しかったのか?」
「え、あ、うん…」
「なら」
レイは顔を上げ、少しだけ微笑んだ。
「また行きたくなったら言え。俺でいいのなら、いつでも付き合ってやる」
レイらしい、淡々とした口調だったが、シンはその微妙な変化がわかった。
わかってしまった。
レイの予想に反して、シンは今にも泣き出しそうに顔を歪めた。
「それじゃ、ダメだ、レイ」
「シン?」
「そんなことしたら、俺、レイのこと―――――」

「        」

シンの声は、真横からの騒音に消された。
「花火…」
夜のパレードの余興だろうか。観覧車から見る花火は、とても大きく、美しかった。
その色とりどりの光に照らされて。
シンが大粒の雫を流していたのを、レイは見なかった事にした。



静かな帰り道。
レイとしては早く帰ってバーを手伝わなければ、という気もあったのだが。
シンが、がっしりレイの腕を握っていたのではどうしようもない。
「シン、着いたぞ」
目の前には、赤レンガのマンション。
それでもシンは動こうとはしない。
「シン」
再度、呼ぶ。
ようやく顔を上げた。
かと思うと今度は両手でレイを抱きしめてきた。
「シン?」
互いの鼓動が聞こえる。
その音に安堵したのか、シンはやっとレイを放した。
「送ってくれて、ありがと」
「礼ならもう少し前に聞きたかったが」
ははっ、と声を上げて笑う。
作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ