こらぼでほすと デート3
その言葉に惑わされて、温かいものを自分で壊した。もう二度と触れてはいけないものだと思ったから、戦いで解決しない方法で進む女の温かい手を取らなかった。同じ方法で世界を変革しようとした温かい手は、取った。自分と同じ場所にある温かい手は、なんとなく手に取ることが許されている気がしたからだ。その手は、一度、手放して失くしたと思ったが、どうにか自分の許へ戻って来た。ただし、同じ場所に立てなくなっていた。
少し違う場所に、その手はあって、自分が帰れる場所となった。取り残すことも取り残されることもしないと、自分で誓った。
戦いは簡単に根絶できるものではない。これからも続いていくだろう。温かい手が存在する限り、自分は、それを守りたいと思う。戦わない女も戦えなくなった保護者も、自分の幸せを願っている。
些細で穏やかな時間が、自分にもあれば、どちらも安心するのだろうか。神の裁きはないが、世界からの裁きはある。それが裁定される時は、いつか来る。その時までに、温かい手が差し伸べられていればいい、と、願う。
終わりは、誰にも等しく与えられる。温かい手の持ち主より、自分は後のほうがいい。取り残されるほうが辛いことを、自分は、すでに知っているからだ。
傍らの寝姿に、それを考えつつ、運転していた。
かなり遅くなったものの、深夜になる前に寺へ帰りついた。運転ぐらいで、俺のほうは疲れることはない。保護者のほうは、帰り道は、ほとんど眠っていた。ちょっと無理をさせすぎたかもしれない。普段、小一時間の範囲でしか移動しない生活をしているから、クルマに乗っているだけでも疲れるのかもしれなかった。携帯端末には、何件かのメールや着信があったが全部、無視した。ティエリアのものが、圧倒的に多い。確実に、嫌味を言われるだろうと覚悟していた。
「なんじゃ、これは? 」
寺に辿り着いて、山門の前にクルマを止めたら、耳のいい悟空が飛び出してきた。続いて、ライルとティエリアをだっこしたフェルトもやってきて、後部座席一杯の荷物に驚いている。
「荷物は、後でいい。悟空、二ールを運んでくれないか? 」
「おう、そのつもりで待ってた。」
ぐっすりと寝ている保護者を、部屋まで運んでもらった。俺でも運べないことはないが、力自慢の悟空なら起こさないように安定して運んでもらえる。
「ライル、布団は敷いてあるのか? 」
「ああ、敷いてあるぜ。もし、兄さんが具合が悪くなってたら、と、思ってさ。それより、これ、全部、運ぶのか? 」
「いや、ちょっと待ってくれ。」
保護者が買っていたものだけ取り出した。フェルトとティエリアへの土産だと言ったものもあるのだが、明日、当人から説明させればいいだろう。ティエリアは、ほとんど眠気に負けているのか、無言で睨んでいるだけだ。
「お菓子だと思う。それから、これの説明は明日、二ールがするから待ってくれ。」
「ということは、後の分は、刹那のもの? 」
「ああ、これも見たいなら、明日、見せる。」
とりあえず、今日のところは、それだけ運んでくれ、と、頼んで、寺の駐車場へクルマは移動させた。戻ってきたら、ライルだけが山門のところで待っていた。
「楽しかったかい? 」
「ああ、楽しかった。こっちは、問題はなかったのか? 」
「これといっては、別に。・・・・ティエリアとフェルトが、大人しかったかな。」
兄さんいないと静かでさ、と、嫁は報告してくれた。どこへいっても、パイプ役な保護者だから、その存在がないと会話も困るらしい。
「おまえはできないのか? 」
「できないよ。・・・・俺は、あの人ほど人付き合いが上手じゃないんだ。」
家のほうへ入って。玄関の鍵はかけた。荷物は、そのまま玄関に放置されているので、中身の確認をして冷蔵庫に入れるものだけ選別した。
「ティエリアとフェルトが両側を独占したから、おまえらは客間な? じゃあ、おやすみ。」
言うことだけ言うと、悟空も寝室へ帰ってしまった。帰りだけ待っていたらしい。居間には、三蔵がいたので、声だけかけたら、おう、と、返事された。
「付き合うか? 」
「ああ、風呂に入ってからでいいか? 」
「義兄さん、なら、俺が。」
「おう、おまえも来いよ。」
どこへ行ったと尋ねられても、「海。」 と、言うぐらいだ。相手も慣れているから、「そら、定番のデートだな。」 と、返しただけだ。
「明日、うちの女房が起きてこなかったら、おまえらで朝の支度はしろ。とくに、チビ。連れまわして疲れさせたのは、てめぇーだからな。」
「了解した。・・・おそらく、起きてこないだろう。」
何年も一緒に生活している保護者の旦那は、翌日の状態もわかるらしい。だから、そう言うことなら、そうだろうと納得する。
「珍しくはしゃいでたからな。・・・・あいつにも、いいデートだったろう。」
「みんな、無事だったからな。」
「そうだろうな。・・・ここんとこ、俺の晩酌に付き合って寝てたぐらい寝られなかったんだ。」
なるべく知らせないように、と、配慮はされていたが、一般的なニュースでも流されていたから、それらを見て心を痛めていた。MS組が宇宙へ上がった頃から、ラボの手伝いもしていたから情報は、それなりに把握していた。じりじりと見ているだけの時間は辛かっただろう。
「兄さん、一泊するかもしれないって言ってたけど? 」
「それでもいいと言われたんだが、そこまですると、ティエリアが怒る。」
「うん、夕方からプンプン怒ってたぜ。」
俺たちマイスター組にとって、保護者は共通の保護者だ。ひとりで独占すると、他のものは拗ねてしまうのだ。特に、ティエリアはそうだ。
「あいつも、デートすればいいんだ。」
「ミニとデートだと? はははは・・・そりゃ滑稽だな? 」
「三蔵さんはいいのか? 」
「毎日、顔つきあわせてんのに、これ以上に、どうするんだ? ちび。」
「えーー俺は、ダーリンと毎日でもデートしたいけどなあ。義兄さんも枯れてるよ、それは。」
「新婚と一緒にするな。」
ぐたぐだと三人で、とりとめのない話をして、その日は終わった。我侭に付き合わせたという自覚はあったが、それについて責められることはなかった。
作品名:こらぼでほすと デート3 作家名:篠義