噂の騎士団長
「リオンって、まさか…!フレスヴェルグの騎士団長のリオン・マグナス!?」
「え、本当、ロイド!?この人が…!?」
「…へー、リオンさんって、やっぱり凄い有名人なんだ〜…!」
「……くだらん。今はそんなことを言っている場合じゃないだろう。」
柳眉を顰め、思わず溜息を吐き出してしまうのは、噂の騎士団長リオン・マグナスだ。
この連中ときたら、全員がそれぞれの国家の存亡を懸けて戦うシグルスだという自覚は愚か、緊張感の欠片すらない。
特に、パートナーのシグルスであるはずの金髪の少年は輪を掛けて、更にだ。
「ああ!騎士国家フレスヴェルグの騎士団長の座に最年少で就いた、ってゆーんで、かなり噂になったんだぜ!」
「私たちの国、ヘイゼルにまでその噂が届いてるんだから、凄いよね〜。」
「俺が予選を勝ち抜いてシグルスになれたのも、それまでずっとリオンさんが剣の稽古を付けてくれたからなんだ!本当、凄い強い人なんだよ!」
「…おい。お前達、いい加減に、……」
「それと、凄ぇ絶世の美少年だってのも噂が飛び交った理由のひとつだけどな!一目観ようとして、フレスヴェルグに行く連中もいっぱい居たらしいぞ?」
「噂はホントだったね〜、ロイド!すっごい綺麗な人だもんね!」
「ここだけの話、フレスヴェルグの騎士団の中にはリオンさんのファンクラブまであったりするんだ!しかも結構な会員数で〜…」
「…おい待て、カイル!!!いったい何の話をしている!?」
聞き捨てならない単語が飛び出したことに、思わず腰のシャルティエを抜き放ち、カイルに向けて構える。
びくっ、と身を震わせた金髪の少年ときたら、何故か向こうの二人と一緒にじりじりと後ずさるものだから、これでは誰がパートナーだか解らない状況だ。
「し、しまった…!これ内緒だって、皆に口止めされてたんだった〜……」
「…あ〜…、でも気持ちは解る気がするなぁ〜。騎士団って、むさい男ばっかの集団だろ?…そんな中に、あんな団長が居たんじゃ…なぁ?」
「女の子みたいだし、細いし、それにすっごく綺麗な人だもんね…。好きになっちゃうのも仕方ないよね〜…」
「だからっ!何の話をしとるんだ貴様ら!!!!」
ふるふる、と震える剣先を突き付けるリオンは、白い額に青筋までくっきりと浮かび上がらせている。
普段、あまり感情を表に出さないタイプなだけに、本気で怒らせるともの凄く恐い。
それを身に沁みて知っているカイルなだけに、なんとか少しでも事態の収拾を図ろうと試みてみるが。
「…で、でもほら!この会報観てよ!皆、こんなにリオンさんのことが好きで、尊敬してるって証拠じゃ…!」
「…へー、こんなものまであるのか!…何々、…『美貌の騎士団長、リオン団長の一日を密かに密着取材!』『知られざる、神秘の寝姿が今ここに!』『リオン団長の秘蔵写真を極秘公開!!』…なんか、凄いな…コレ…」
「朝食はサラダとパンだけ、パジャマの色は水色、今日のおやつはモンブラン…うわ〜、こんな情報まで載ってるんだね〜…」
「……僕の目の前から、消えてしまえっ!魔人煉獄殺!!!!!」
「「うわぁーっ!!」」「きゃーっ!!」
当然ながら、カイルが懐から取り出した「月刊リオン・マグナス」は、火に油を注ぐ結果に終わった。
その為、三人まとめて問答無用の怒りの秘奥義をまともに喰らうことになり、カイルの手の中にあった会報は見事に塵と消えたのだった。
「…さぁ、フラッグも手に入れたし、さっさと先に進むぞ!…いつまで寝ているんだ、カイル!」
「…ひ、酷いよ、…リオンさん…!俺はパートナーじゃなかったの…?」
ずかずかと去っていく細い背中を、金髪の少年が蹌踉けながら、ふらふらと付いていく。
そんな二人を見送るロイドとコレットは、今後は出来るだけこの二人には関わらないようにしようと、心から誓うのだった。
そして時折、小遣い稼ぎにリオン情報をファンクラブに流していたカイルは、この事実だけはリオンに知られることが無いように、心から祈るしかなかった。