暦ツイノベログ
俺、ご飯おいしそうに食べるひと好きなんだよね、と彼は隣のテーブルを見やり、小さく呟く。暦町女子会勢揃いで囲むテーブルには所狭しと皿が並んでいた。そういうのは本人に言ったら?と問えば、言えたら苦労しねーっつの、とテーブルの下の向う脛を遠慮なしに蹴り飛ばされた。
-------9+12
いつもより本数が多くないですか?と長月が問うと、指摘されて初めて気づいたように、彼は灰皿の吸い殻を見た。今年は担任だから余計にダメだ、と新しい煙草に火を点ける横顔には苦笑いが浮かぶ。早く桜が咲くといいですね、と返せば、彼は紫煙をくゆらせながら、本当にな、と呟いた。
-------1+12
現れるとき裏の勝手口からなのは長年の習慣らしい。少し腰を屈めて低い鴨居をくぐると、ぐるりと視線を巡らせるのもそう。きっと本人は自覚していないだろうけれど。「ママは留守ですよ」そう言ってやったら、彼は睦月の顔を見るなり、よお、と大人ぶった笑みを浮かべて片手を上げた。
-------9+8
「シューさんはお店に出てこないんですか?」珍しく独りでランチにやってきた彼女は厨房の中が気になる様だ。「シューは隠しキャラみたいなものだから」「イベント発生条件教えてください」それを聞いてボクは彼女へにっこりと微笑む。「まずはボクへの敬語をやめることかな?」
-------1*8
コレすごい可愛くないっすか?と手元の雑誌を覗き込んでくる睦月から香る甘い匂いと無防備に押し付けられるやわらかな感触に、どうにもそわそわする。さりげなく離れようとしたら更にぎゅっと抱きつかれ、上目遣いの眼差しを可愛いと思ってしまった時点で葉月は敗北を悟った。
-------9+3
今夜は弟くんと一緒じゃないの?と訊ねると、弥生は少し困ったように微笑んだ。兄離れかな?と返せば、逆だよ、と笑う。欠けてゆく満月を見上げるその横顔は意外なほど穏やかだった。さみしい?と再び問えば、彼はふるふると首を横に振り、長月が一緒だもの、とにっこり目を眇めた。
-------4*8/5*4
真冬の夜空を無心に見上げる幼馴染みの横顔をそっと盗み見る。一度口を開けば手に負えない毒舌だが、思えば子供の頃から本を読んでいるときと星空を眺めているときは嘘のように大人しかった。星、見ないのか。ふいに呟いた彼に、好きだよとは言えないまま、ただ小さく笑ってその手を握った。
-------11+12
誰もいない音楽室でぼんやり虚空を見上げている人影が担任であることに気づき、声をかけようとして言葉を飲みこむ。見たことのないやわらかな淡い微笑。だが、すぐに彼はこちらに気づいて振り返ると、もうお子様は帰る時間だぞ、といつものように憎たらしい笑みを口の端に浮かべた。
-------5+2
偶には落ち込んでる弟をやさしく慰めてくれてもいいんじゃね?と拗ねてみせたら、バカなこと言ってる暇があるなら私のために美味しい紅茶の一杯でも淹れる努力に費やすべきじゃない?と艶やかに微笑まれ、皐月は姉のお褒めの言葉を頂くべく、大人しく台所へと向かった。
-------10*2
キスしてあげましょうか、と言われた瞬間、目の前が白く染まった。こちらを見つめる感情の抜け落ちた微笑に、込み上げるのは憤りと憎しみと微かな愉悦。そんな自分に絶望し、許した覚えのない涙が一粒零れ落ちる。決して請うたのではないと己に言い聞かせ、如月は静かに目蓋を閉じた。
-------5*3
暗く冷たい床に引き倒された彼は、まるで人形のようなやさしい笑顔でこちらを見上げている。どうしたの、と彼が頬に伸ばしてくれた指先をこぼれ落ちた涙が濡らす。届かないことが辛くて哀しくて遣る瀬無くて、それでもずっと愛しいひと。歪に笑ってみせると、宥めるようにそっと、彼の掌が背を撫でた。