チェリー
そう言いながら、海華はフリックに舌を見せた。
その上には、器用に結ばれたさくらんばの茎がある。
さっきから食べていたさくらんぼで作ったらしい。
いきなり茎の方を食べたので、どうしたのかとフリックは不思議に思っていたのだが、これを作っていたらしい。
試しにフリックも、海華の持っているボウルの中からさくらんぼを一つ取り出し、茎を自分の口に、実の方を海華の口に入れた。
しばらくはもごもごと口を動かしていたが、しびれをきらしたように、ぺっと吐き出した。
「難しいな・・・」
「集中力がいるよね」
言いながら、海華はクスクスと笑っている。
その海華の様子に、あきらかに不機嫌そうに、フリックは顔をしかめた。
「なにがそんなにおかしいんだ」
「あぁ、ごめん。あのね・・・」
言い途中にもかかわらず、再び腹を抱えるようにまた笑い出した。
さらに不機嫌そうに、フリックは海華の両頬を思いっきり引っ張った。
「なにがおかしいんだ」
「いひゃいっ!いうからー」
最後にいっそう強くつねり、やっと手を離した。
さほど強い力ではなかったが、ある程度ヒリヒリする頬をさすりながら、海華は話し出した。
「だから・・・・・・・これができる人はキスが上手なんだって」
「はぁ?」
あまりのくだらなさに、フリックは素っ頓狂な声をあげた。
「なにを根拠にそんなことを・・・・」
「ほら、口だけでヘタ結ぶのって、舌の動きが重要でしょ?だからじゃないの?」
なるほど、一理あるかもしれない。
フムフムと首を振りながら、フリックはハタと止まった。
海華はさっき出来ることを実証したが、フリックは出来なかった。
つまり、フリック(攻)は海華(受)よりキスがヘタということになる。
それは攻めとしてのプライドが許さない。
「あ、マクドールさーん!なにしてるんですか?」
その単純計算をフリックが頭の中でしていた時、どこにいたのか、空柳が海華の後ろから現れた。
「あ、さくらんぼですねv 僕この茎を結ぶの得意なんですよ♪」
言い終わるが早いか、さっとボウルの中からさくらんぼを一つつまみ、それを茎ごと食べた。
「ほりゃ」
そう言いながら見せた舌の上には、さくらんぼの種と、結ばれた茎があった。
その速度は海華より数段早かった。
「!!」
「わぁ、すっごくうまいね」
海華に(少し違うと思うが)褒められた空柳は、頬を赤らめ、得意そうに少し笑った。
フリックにはその光景が、海華が空柳にキスがうまいと言っているように見えて・・・・・・
後日。
さくらんぼを大量に買うフリックを見た人が続出したという