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仰せのままに、愛しの君。

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優しく抱きしめられた私の体はふわふわ浮かんでいるような妙な感じで…、でもそれが心地好くて、温かくて。
この温もりを手離したくはないと思った。



「お姫様は王子様のキスで目覚めるんだよ」


そう言って彼の顔が近付いてきたから、私は彼の行為を拒否するように顔を背けた。
そしてまた募る後悔に心の中で溜息を吐いた。

また、だ。

また天の邪鬼な自分が出てしまった。
彼の前だとどうしてか素直になれない自分。

「もう起きています」
「えー残念!せっかく僕が甘いおはようのキスをしてあげようとしたのに、ユニちゃんてば本当女王様なんだから」
「誰が女王様ですか。それにそんな挨拶いりません」

ベッドでの攻防戦。外見で私と白蘭、内側では素直な私と天の邪鬼な私が戦っていた。
ツンツンと、どんなに態度を冷たくしても白蘭は私から離れていこうとはしなかった。

それがまた私の恥ずかしさを天の邪鬼な性格とさせていく。

「早く、仕事に行ってください」

嘘、行かないでほしい。
心でそう思ってはいても口から出るのは可愛くない言葉ばかりで。

泣きそうになる。

だけれどグッと唇を噛みしめて感情を堪えた。
彼の前で泣いてはダメ、絶対にダメ…そう自分に言い聞かせて瞼を閉じる。

「ユニちゃん」

そんな私を呼ぶ声、白蘭が私を呼んだ。
呼ばれて顔を上げようとしたけれど今顔を上げたらきっと涙が零れてしまう。

だから敢えて反応はせずに次の彼の行動を待っていたら、不意に俯かせていた顔を上げさせられて否応なしに瞼を開けることになった。

「ユニちゃん」

また、彼が私の名前を呼んだ。
今度は私の目をまっすぐ見ながら呼んでいる。

そんな彼の顔は、太陽に負けないくらいの暖かい笑顔だった。
何が嬉しかったのか、はたまた嬉しいことがあったのか。

ただ彼を見つめていれば、また名前を呼ばれて私の胸はずっと高鳴りっぱなし。

「ユニちゃん、僕はどんな君でも好きだよ、大好き」

彼があまりにも優しい笑顔で、安心させるような声音で話すから。
今まで耐えた苦労も水の泡に、涙を零してしまった。

そんな私に先程と同じような言葉をかける白蘭。

「お姫様は王子様のキスで目覚めるんだよ」

先程と同じ…けれど今度は何か意味合いが込められたその言葉に、私は天の邪鬼な自分と向き合う。

天の邪鬼な自分は素直になれない自分がつくってしまった私の心。
だけれどそれは彼が好きという感情から生まれたもの、それも私の一部。

ならば一緒に、と私は思いついて想いを言葉にしてみた。

「私を甘やかせてください」


彼はその言葉に頷くと彼は頬を撫でながらこう言った。



【仰せのままに、愛しの君。】


それがまるで本当の王子様のように見えたから。
私は瞼を閉じてキスを待つお姫様のような気分を錯覚した。