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ファーストキス

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ふわふわと、浮遊感。
ゆらゆらと、目眩。

重い重い瞼を開く。

目を開けたときに感じる反射するような光を手で逸らす。


まぶしい・・・


パチパチと何度か瞬きをした後に、ごろんと寝返りをうったら。そこには見知った。けれどあまり見ることの出来ないルームメイトの寝顔が間近にあった。


那月・・・?。


まだ覚醒しきらない頭でグルグルと思考を働かせる。
なんで那月が俺のベットで、なんで気持ちよさそうに寝てんだ。
俺のことを抱き枕かぬいぐるみのようにぎゅーっと抱きしめたまんま。
満足そうに。いつものおっとりとした黄緑色の瞳が伏せられて、少し幼く見える寝顔が少し、ほんの少しだけ、愛しく思えた。

案外こいつも、可愛らしい顔してるな。なんて。

本人が起きてたら絶対言わないであろう言葉が頭を過ぎる。
だって、多分そんなことを言おうもんなら。きっと。「翔ちゃんのが可愛いですよ〜。」なんて、挨拶のように交わしてるいつもどうりの会話になるだろうし。
そんなこいつが喜びそうな言葉。言ってやる義理もない。

誰が言ってやるものかと。一人固い決心をして、ふと、隣の寝顔に気づく。

いつもの那月の顔に。なにかが足りないのだ。
ふわふわと跳ねてる髪の毛に、女顔負けの長い睫毛と白い肌。細い、けれどほどよく筋肉があって男らしい。自分にはない那月の体。というか顔に。何かがない。
とても大切な気がする。何かが・・・。

なんだろう。何か単純な。けれどとっても必要な。何か。

じっーと那月の顔を眺めていたら、閉じられていた瞼が急にバチッと。火花でも出そうな勢いで開かれた。
その瞬間。足りなかった何かに、ハッと気づいた。


「あっ!眼鏡ー・・・」


気がついた時には。時は遅しとでも言うのだろうか。
とっさに危険だと判断した体が、逃げ腰になりながらベットから降りようとしたのを那月・・・いや、砂月は見逃さなかった。

ベットからあともう少しと言うところで出られたであろう。自分の細い腰を。砂月の手がガッチリとホールドしていた。
逃げ場を失った瞳で、恐る恐る砂月の顔を覗えば、いつものおっとりとした瞳ではなく。飢えた獣のようなギラギラとした視線と絡み合う。
まるで逃がさない。っとでも言いたげな目だ。


「・・・・さっ砂月・・?」


重たい沈黙のまま見つめ合うなんて恋人みたいなこと、男同士の自分には無理で。
とりあえずこの沈黙をどうにかしようと、彼の名前を呼んでみるが、こちらをじっと見つめるだけで。反応がない。
自分よりも数倍図体のでかい男にガッチリホールドされたまま無言で見つめられるなんて、こんなにも恐ろしいことはないと思うほど。恐怖した。

なんでもいいから答えてほしいと半場涙目になりながら、震えていたら。
まったく無反応だった砂月が、すぅっと息を吸い込むように口を開いた。


「・・・なに震えてんだ。お前。」
「・・・・・っえ・・?」


何が。何をされるのだろうと身構えていたが、彼の口から出たのは、思わず気の抜けるような一言。
予想外すぎる言葉に思わず固まっていたが、問われた意味をなんとか頭で整理したところで。
急激に怒りが溢れてきた。

そして思わず。


「・・・っべ、別に震えてねーよ!バーカっ!!。」

バシッ。


つい。本当の本当につい。手が出てしまった。
砂月の顔を反らすように手のひらで砂月の頬を横に押し退けていた。もちろん。やった本人も、ましてややられた砂月でさえ。
いきなりのことに思わず二人とも、そのまま硬直してしまった。

だが、自分の手が砂月の頬を力一杯押していると、気づいた瞬間、翔の顔が青白くなり冷や汗が流れ始めた。
不可抗力。とはまさに、こういうことをいうのだろうか。なんて。どうでもいいことを頭が過ぎ去る。


「・・・・やってくれるじゃねぇか、チビ。」
「ちがっ、」


ふいに。固まっていた砂月の瞳がギロリとにらんできた。
その瞬間、全身の警報が鳴り響いて、危険とか逃げろっと、頭に回ってきた。
だがやっぱり時は遅し。違うと否定しようと開いた顎を左手でガッツリ掴まれ、逃げようとした腰は片手で意図もたやすく砂月の方に引き寄せられた。
そのまま頭突きでもされるんじゃないかと思うぐらいの勢いで迫ってきた、砂月の顔に思わず目をぎゅっと瞑る。

だけど、訪れた感覚は鈍い痛みではなく。唇に、ふにっと柔らかい弾力のある感触が掠めるように触れて、離れる。
驚いて目は開ければ、口端を吊り上げて笑う顔が唇が触れそうなほど近い距離にあった。

何?と言いたげな瞳で砂月を見ると、少しいじわるくにやけたまま。か細い声で。


「初めてだったか?キス。」


言われた言葉に、頭がついていかない。

ただ一生懸命。現時逃避。

キス?キス?キス。
キスって・・・キス?。誰が誰に?。だって目の前にいるのは、砂月で。
そもそも、キスって男同士でするものだっけ。いや、ふざけてならするのかな。けど、でも、それでも。

俺にとってキスは、初めてのもので。
つまりそれは・・・・。


「・・・ふぁーすと、きす・・・・?」
「、あ?」


自分で言って、果てしない後悔がドッと押し寄せた。
まさか自分が、男と、しかも砂月と、ファーストキスをしてしまうとわ。誰が予想しようものか。


「おい、チビ。なにしてー・・」
「黙れえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


無言でわなわなと震える翔に、痺れを切らした砂月が肩を掴んで振り向かせようとした時だった。

ぐるりと。勢いよく振り返った翔は、ベットのサイドテーブルに置かれた眼鏡を投げつけるように砂月に掛けた。・・・はずだ。
確証はない。なんせ意地になって投げつけたのだから。

ただ、無性に今は、砂月の顔が見たくなかった。まだ那月の方がマシ。な、はず。

ハァハァッと自分の荒い息遣いだけで、何の反応もしない相手に、やや心配になりながら顔を覗けば。
そこには、きょとんっとした。那月の姿があった。

那月は目を何度かパチパチと瞬きさせたあと。視線をキョロキョロと辺りに彷徨わせる。
何が起こったのか分からないといった感じの那月に。「おいっ。」と声を掛けてやれば、数秒見つめあったにちに、「翔ちゃん・・・?」と、那月らしい言葉が返ってくる。


「どうしたんですか?僕のベットに入ってくるなんて。」


まだ寝ぼけてるのか。こいつは。

にこっと微笑みながらアホなことを言っている那月に身近意にあった枕を投げつけながら、「ここは俺のベットだっ!!」と、怒鳴りつけやる。
その瞬間、那月の表情が笑顔からまたキョトンとしたアホ面に変わった。

そして頭を横に傾けながら、うーんと考えたあと、


「・・・そういえば翔ちゃんとピヨちゃんを間違えちゃったかも。」
「俺はこんなまるくもないし、小さくもねぇぇぇーーーっ!!」

っと、アホ発言をする那月にそのピヨちゃんとやらのぬいぐるみを顔面に投げ付けてやった。







おわり。




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作品名:ファーストキス 作家名:七夜