変化
午前の暑すぎる気温に対して、今は鳥肌が立つくらいの肌寒さを感じる。
急に吹いた冷たい風に思わず腕を擦って身震いした。
「元就」
そんな時、名を呼ばれた気がして後方を振り返ってみると。
呆れた顔で自分を見下ろしている元親がいて、手には閨に置いてきてしまった羽織りが握られていた。
「上着くらい持っていけよ」
「…我は貴様の下敷きになっていたのだぞ。抜き出せるわけがなかろう」
この男との交わりが終わってすぐ、眠気に誘われて微睡みの中へと落ちた。
乱された衣服は序盤の頃に全てもぎ取られたから良いとして、羽織りは何故か男の下敷きになっていた。
一応、抜き出そうと試みるが結局は無駄な消費労力に終わった。
「だったら俺を起こせよ。起きたらアンタが居なくなってて、焦った」
言いながら自分に羽織りを掛ける手が少しだけ首に触れて、冷たい。
自分と同じくらい、或いはそれよりも冷たい温度に少しだけ驚く。
「…フン」
心配して、探し回ってくれたのだろう。
そのことがわかって、体の内側が温かくなった。
「五月蝿い男よの。我が逃げ出したとでも思うたか」
「ちげぇよ、俺は…アンタが消えちまったんじゃねーか、って心配したんだ」
「戯れ言を。我は逃げも隠れも…貴様の前から消えもしないわ」
「元就…」
言ってすぐにハッと自分が何を言ったのかわからなくなった。
恥ずかしい。何を口走ってしまったのだろう自分は、と穴があったら入りたい。
けれど人が恥ずかしがって気分を害したというのに、目の前の大男は笑っていた。
「…なんぞ」
自分の問いかけに男は首を振るだけで何も言わなかった。
その代わりとでもいうのか、男は笑みを絶やさなかった。
変な男だ。…しかし、不快ではない。
いつから自分はこう変わってしまったのだろう。
自分の手を握る男の手に、こんなにも安心する。
「そろそろ戻ろう。朝餉の用意ができてる」
【変化】