嘘の上手なアナタのために【腐向け】
「なあ志摩ー」
後ろからぎゅーっと抱きつくと、彼はちょっと困ったような笑い顔で
こちらを振り向く。
「なんやの奥村くん？」
「…志摩を見つけたから」
肩に頭を預けると、志摩は俺の髪をくしゃくしゃと髪をかきなでる。
「もう、奥村くんはほんま甘えたがりやさんやなー」
「ん……」
顔をあげるとそこにはいつものヘラヘラ笑う志摩の顔があった。
よかった、いつもの志摩だ。
「なー志摩！」
「おい志摩、聞いてるのか？」
「……なんか、奥村くん最近志摩君にべったりですねぇ」
「ああ、あいつもよう分かるんやろなぁ」
「え？」
「…志摩がたまに無理してることや。奥村がああやって抱きついたり
する時はいつも志摩が作り笑いしとる時やしな。」
「なぁしーまー、こっちむけよー」
「奥村くん、暑いから抱きつくんはやめて下さいー……」
「嫌だ、離さない。」
「ふにゃっ…ほっへたふぉひっはるのもやめてふらはい……」
「やだ」
志摩の胸に顔をうずめる。トクトク、と規則正しい心音が伝わってくる。
「もう、困ったお人ですねぇ」
俺が抱きついたりこづいたりする度、志摩は最後にはこうやって苦笑いをする。
彼の笑顔に「嘘」が混じっていることに気付いたのは少し前から。
一人になった時にはちょこっとだけその影を見せるけど、他人の前では
ヘラヘラ笑う顔は絶対に崩さない。……その表情の見えない奥のほうに、
俺にも計り知れないような重たいものを彼は背負っているのだろうか。
「……なぁ志摩」
「なんです？」
「俺の前で無理とかしてないか？」
「…」
「作り笑いとか、そういうのやめろよ。そんなんだからカッコ悪いんだぞ」
「……なんです急に。別に俺は作り笑いなんかしてませんよ？
だいたい笑顔がトレードマークなのに、やめたらあかんでしょう」
にー、と口角を指で持ち上げる志摩。すかさずデコピンを食らわしてやる。
「痛ったぁ！」
「お前が悪りーんだよ」
一人で背負っているものがあるなら、俺にも背負わせてほしい。
……俺にだってかかわる権利くらいあるはずだ。まだ信用とか足りてない部分も
たくさんあるけど、きっと、いつかは心を開いてくれると信じてる。
だから、今日も俺は自分の気持ちを正直にぶつけるよ。
嘘の上手なアナタのために
（この両腕は素直な君を解放するためにあるんだ。）
作品名：嘘の上手なアナタのために【腐向け】 作家名：よたろー