あいしてるってそういうこと
ねえ、あいしてるっていうのはそういうことなんだよ?
佐藤くんが長年の片思いに決着をつけ、とうとう轟さんと晴れて付き合うことになったらしい。
それを俺は佐藤くんから聞いた。
佐藤くんと俺は同じ職場の同僚で、仲が良いのかと聞かれればまあ普通?
何で普通かといえば俺は佐藤くんのことが好きで好きでとーっても好きだけど、向こうはそうじゃないからプラマイが相殺されて普通になるかな?という感じ。
そう、俺は佐藤くんが、好き。
でも佐藤くんは、轟さんのことが好き。
え、片想い?
うん、そういうことかもしれないね。
でも俺はとってもとっても佐藤くんのことが好きだから、それでいい。
両想いという定義に愛情が100必要だと言うなら、俺の愛情だけで100になるからいいんだ。
ねえ?俺は佐藤くんが本当に本当に好きだよ。
「……だから、もうこういうのはやめろって言ってんだ」
佐藤くんは困ったように呟いた。
俺は抱きしめた佐藤くんの顔を覗き込む。
「どうして?」
「だから……さっき言っ」
「うん、轟さんと付き合うことになったのはさっき聞いたよ。だから、なんで」
にっこりと笑うと佐藤くんにキスをした。
佐藤くんは困ったように俯く。
俺は佐藤くんの唇が柔らかいこともそのキスが苦くて甘いこともそれからその身体の隅々まで知ってる。
そして佐藤くんが轟さんのことをどれだけ好きかも。
「おめでとう、佐藤くん。良かったね」
「ああ……だからこの手を離せって言ってんだ」
ぺチリと佐藤くんのシャツのボタンにかけていた手をはたかれた。
何だろう、佐藤くん今日は機嫌悪いなあ。
初めてこういうことをしたときの佐藤くんはものすごく酔っていた。
多分轟さんの店長に対する惚気が限界に来たか何かだったと思う。
一緒に飲みに行って、ものすごく酔っ払ってたから連れて帰って。
それから。
……でもすがりついてきたのは佐藤くんだったんだけどな。
それから一度も二度も一緒だよという俺に言いくるめられるようになし崩しにこうなって。
たまにこうして、その肌に触れられるようになった。
佐藤くんは優しくて少し弱いから、結構流されやすいと思う。
それで、俺は佐藤くんが好きで、佐藤くんは轟さんが好き。
それは知ってるよ。だから?
「だから……こういうことは、もう終わりに」
「終わり?俺たち何か始めてたっけ?」
そう、俺たちは何も始めてなんかいない。
付き合っているわけじゃないから別れるというのもおかしい。
ただただ、俺が佐藤くんのことを好きなだけ。
「何にも始めてないよ?だから何も終わりになんかできない」
「……相馬」
「佐藤くんは轟さんと付き合うんでしょう?良かったね、おめでとう」
でも、だから何?
轟さんと付き合って、だから何がどうなるの?
俺と佐藤くんは、何にも変わらない。
「大丈夫だよ。俺は、轟さんのことが好きな佐藤くんごと好きだから」
「相馬……!」
「だから、何も終わりになんかならないよ。始めてもいないんだから」
もう一度俺は佐藤くんにキスをした。
いつものように甘くて苦い。
「轟さんと仲良くね?でも俺も佐藤くんが好きだよ」
「…………」
「俺も佐藤くんが好き……大好きだよ?」
佐藤くんが誰のことを好きでも俺は気にしない。
ねえ、愛してるっていうのはそういうことなんだよ?
そうして佐藤くんは何かを諦めたような顔をして目を閉じた。
好き好き大好き、佐藤くん。あいしてるよ。
作品名:あいしてるってそういうこと 作家名:774