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フレンドボーイ42
フレンドボーイ42
novelistID. 608
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それだけが真実で

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 すべてそのままに、か。
 そうですね。
 そうですよね。
 うん、わかりますよ。
 そういうことですよね。

 私は朽ちる運命にあるのですね。

 『世界』はまだ終焉の時を迎えないのに、私は終焉が来るといった。
 『世界』がまだ循環するのに、循環しなくなったといった。
 そんな私です。
 『世界』についての嘘をいった、そんな私です。
 ええ、私はそんなウソつきです。
 そうして、私は人々に苦しみ、苦痛、悲しみ、不安、混沌、そして悲劇を与えました。
 そうです。
 私は死ぬ運命にあります。
 今から黒い十字架を背負って死ぬ運命にあります。
 
 ええ。
 もう覚悟はできているのです。
 だから、もう死んでしまいましょう。

 #

 おまえは重大な罪を犯したといって、国家の反逆罪に処せられた。何のことはない、ただ嘘ついただけだ。この国は滅びると。…忌々しい嘘を。そのようなことを言って無事でいられるとお思いか?…ふっ、まったくもって症のないやつだ。せめてお前のために、せめてもの加護を与えよう。死ぬまでの時間が少しでも伸びるように、一気に殺さず、じわじわじわじわダメージを与えて差し上げよう。その間に、あなたは最期の歌を歌いなさい。
 死までのタイムリミット…それはいつかわかりかねるが、そうだね、2〜4年の間だろうな。別に伸ばしてやってもいいが、どうせ伸ばそうがここで死ぬ運命にある。外には出られないからな。可哀想すぎるから、本でもくれてやる。「ドグラ・マグラ」っていう本だ。俺が持っている唯一の本だ。もう腐るほど読んで一字一句覚えているから、お前にやるよ。ああ、読みたいだけ読めばいい。きっとおれの手垢がおちてお前の手垢まみれになるだろうな。まあ、それは覚悟しているし、どうだっていい。勝手にしてくれ。
 なんだ、お前変わっているな。そんなに死にたいのか?しかし、古い習慣は変えるわけにはいかないんだよ。2年はせめて待ってくれ。まあ、お前の気持ちもわかるよ。こんなところ、ずっといても暇だもんな。働くことすらできなくて、辛いだろう辛いだろう。分かっているが、それがお前が背負う十字架の重さを示す天秤なんだよ。ああああ、なんて苦しい顔をしているんだ。せめて運命を受け入れてしまえばよいのに。分かったよ、暇で時間を持て余すなら、こっちに来な。お前これを見れば少しは暇なんて思わないだろうな。これが、そうさ、この国家に反逆した者に受け入れさせる苦しみだ。
 苦しいか。
 お前じゃないのに苦しいか。
 そうだろうな。
 俺ですら同情…とまではいかないが、さすがに目を伏せたくなるものさ。
 だが、もともと非情だったものには、非情な刑を受けさせるしかないんだよ。
 俺も、もう慣れた。
 今じゃあの様子を見ながら肉料理を食えるようになっちまった。
 だから外に出ず、看守をずっとしているんだけどな。
 まともな感覚を持っていない俺が外に出るのはまずいだろう?
 その感情、憐れみも全てけがれていき、すべてを感じない人間にお前もじきになるだろう。ここに修道士の一人でも来ればこんなことはないんだろうけれどな。そんな国もあんだとよ。その国は、無能な野郎でもこの国のように裁かれることも刑を執行することもないし、みょうちきりんな考えでもそれを考えとして尊重するんだとよ。お前もその国に生まれればよかったな。まったくお前、苦しい顔しすぎなんだよ。もう少し笑えっつーの。もう仕方ないだろうに、出ていけるかよ。
 おい、飯の時間だぞ。食いたくねえだと?まあ、初めはそうだろうな。別に食わんでいいからテーブルにはついてくれ。俺がめんどくさいんだ。まったく、お前せめて刑まで病死するなよ。死刑囚が病気になりましたってなった真っ先に殺人容疑をかけられるの俺なんだからな。
 
 #

 昨日まで血が通って
 明日は血の通わない
 昨日までうるさかった心臓の
 明日には止まった静けさ

 全ての過去を押し流し
 全ての未来をせき止める
 言ってしまえば簡単ではあるが
 言うとうそくさい記号の言葉

 #

 全てもう捨てちゃいな。お前はもう外のお前じゃないし、外は架空の世界だと思え。そうすれば耐えられるよ。ここしか現実はないんだ。お前がどう思おうとここにしか現実はない。ここにしか!そういうもんだろう。今のお前にほかに見れるもの?そうだな、中庭を通れば、丸く切り取られた空を見ることができる。お前にとってそれは唯一の『空』だ。くりぬかれたうちだけがお前にとっての『空』だ。星が見えねえ?この『空』に『星』なんてないよ。ここは何も見えず、ただ白黒変化するだけのものだ。『星』なんてお前にはもうないだろう?心の中に、それは輝いているのか?お前の中で輝いているのは、昨日見た罪人の血だけだろう?
 なんだまだそとなんてものを望んでいるのか。仕方ないな。お前にもう一つ本をやろう。最近読んだ本だ。「週末のフール」という題名。現代の作家が描いたらしいが、俺はあいにく文学には疎くてね、よくわからない。ただ平積みになってたから買って読んだだけだ。好きに読み漁るがいい。というか、「ドグラ・マグラ」そんなに読んでいたなんてな。もうページが擦り切れてやがる。そんなにやることないのか。まあ、仕方ないわな。お前に漫画なんて与えても笑えないだろうし、芸人共の番組も詰まんなくてしょうがねえだろうしな。
 お前、やっと魚は食えるようになったか。まだ、足があるものは食えねえのか。仕方ないな、ほれ、大豆だ。お前のためにわざわざポケットマネーで買って来てやったよ。余りにがりがりになっちまった。悲しいほどに、ここだけモノクローム写真になっちまったな。おい、お前、隣の罪人を見てみろよ。こいつ、どうやら明日処刑されるんだとよ。お前と違うな。死んだ牛馬の肉を食えるんだ、こいつはな。お前はまだ食えないものな。ここに来て何年になる?お前は…もう3年だ。もうじき死ねるよ。未だに死にたいと思っているか?そうか、そんなに死にたいか。分かった、お前、こういうのはどうだ。お前がこの一週間のうちに死ねるように俺が今からお願いしてみるっていうのは。そうか、いいか。じゃあいってくらあ。

 #

 死人は何にも語らない
 死人は何にも語れない
 死人はただそこにいて
 過去の存在をそこに記す
 死人はただそこにいて
 未来の非存在をそこに記す。

 #

 さ、お眠りよ。お前が可哀想だから、すぐ死なせてやる。ひと思いに。もう未練はないな。分かった。執行人、執行せよ。

 死んでしまったか。お前、意外に楽しかったのにな。お前、前日はちゃんと牛肉くったな。感心だ。さあ、もう手を伸ばしていいんだ。まあ、お前はもう動けないけれどな。それに手を伸ばさなくても空まで飛んでいけるものな。お前、正直言って、本当に面白い奴だったよ。

 あるな、本が二冊。もったいないから返してもらうよ。また誰かに読ませてやろうかな。

 たく、これで満足かよ?満足なのかよ。お前なあ…本当は、もっと生きたかったろうな。
 まあ、それが十字架の色を示しているんだ。お前の意見はすべて弾圧される、という意味の色だ。

 #

 死人はそこにいた。
 確かにそこにいた。