無上のアフェクション
宛先は日本からだ。
封を切り、中に入っていたビデオを取り出す。
それを、プレイヤーにセットする。
手持ち無沙汰になって落ち着かないので、枕をギュッと抱きしめて、再生ボタンを押した。
開始早々、そこには、見知った男性が座っていた。
『あ〜、その、なんだ、元気か?助手よ。』
あ、岡部・・・
『その、なんだ、こっちは、っておわっ!』
岡部が画面から消えた。
『紅莉栖ちゃん〜、トゥットゥルー♪』
『牧瀬氏〜お久〜。』
『だ、大丈夫ですか?おか、凶真さんっ!』
『岡部君が、吹っ飛んだ。』
パシャパシャと写真を撮っている音が聞こえる。
『ええい、こんな所を撮るではない!閃光の指圧師よ!』
『紅莉栖にゃん、元気かにゃん?』
「ふふふ、相変わらずって感じね。」
『まったく、お前たち!!この、狂気の!マッド!サイエンティスト!である、我を突き飛ばしおって!!』
『ま、ま、ま、落ち着こうよ、オカリン。牧瀬氏が見てるんだお?』
『そうだにゃん、凶真。』
『オカリン〜。紅莉栖ちゃんに恥ずかしいところ見られちゃってるよ〜』
『!! あ〜まゆ氏、まゆ氏? 今のセリフを、”オカリン”ではなくて、”まゆしぃ”で、もう一回言ってみてくれる?出来たら、照れながら。』
『え? まゆしぃ、紅莉栖ちゃんに―」
『言わせるな、変態がっ!!』「言わせるな、変態がっ!!」
あ、岡部と同時に突っ込んでしまった・・・
『あ、ほら、凶真さん、早くしないと・・・録画時間が・・・』
『あっと、そうだったな、まったく、お前たちは・・・』
画面の中央に、岡部が座り直した。
『あ〜、なんだ。こっちは、3月とはいえ、まだ寒い。』
『そっちは、どうなんだ?』
『元気にやってるか?』
『えーと、その、何だ、こっちはホワイトデーだったんだ。』
「そういえば、そうだったわね。ふふ。」
一人、部屋でビデオレターを見ながら、笑っていた。
でも、アメリカには、ホワイトデーの習慣は無い。
バレンタインも、女性から男性へというものではなく、同性同士でもごく普通にあることだ。
『紅莉栖ちゃん、これ、オカリンが作ったんだよ〜♪』
『凄く美味しいんです!』
岡部の背後から出てきた、まゆりと漆原さんが封に入ったクッキーを見せてくれた。
あのクッキーを岡部が作ったの?
意外だ・・・
『ええい、イチイチ見せなくてよいわ!!』
『でも・・・初めてとはいえ、本当に美味しい・・・』
クッキーを食べながら話す桐生さんの声が聞こえる。
本当に、美味しそう・・・
『いや〜、まさか、僕にもくれるなんて、オカリン、僕に惚れてるな?』
『違うっ!!これは、日々、世話になっているラボメンにだな、我が右手を駆使して創り上げた、ゴッドタイズスイーツだ!!』
『凶真は、メイクイーンに何度も足を運んで、作り方とか勉強してたにゃ〜。』
『こら、ばらすんじゃない!』
変わってないと思ってたら、変わっていた。
『まぁ、だから、紅莉・・・助手よ・・・お前も、大事なラボメンだ。』
何故、言い直したんだぁ〜!!
ベッドをグーでボンボンと何度も叩いてしまった、いかんいかん。
『だが、このゴッドタイズスイーツは2日ももたずに、光となって消えてしまうので、さすがにアメリカまで送る事が出来ない。』
素直に消費期限と言えばいいのに・・・
『だから、その、お前が、何時戻ってきても良いように、この力は我が右手に取り込んだので、好きな時に創ってやろう。』
「岡部・・・」
『じゃあ、身体に気をつけて、元気でな。我が助手よ。って、おわ!!』
岡部がまた消えた。
『またね、紅莉栖ちゃん〜♪一緒にコスしようね〜♪』
『牧瀬氏〜バナナが待ってるお〜!』
『一緒に・・・遊びましょう。』
『今度会ったら、アメリカでのお話し聞かせて下さいね。』
『にゃ〜ん!紅莉栖にゃんに会いたいにゃん〜!』
『ええい!二度も我を突き飛ばしおって〜!紅莉栖、我がラボは、貴様の帰りを何時でも歓迎するぞ!いずれ来る、ラボメンNO.008にもお前を知ってもらわねばな!では、またな!ふぅぅはぁっはっはっはっ!!』
プツンっとそこで、ビデオレターは、終わった。
テレビを消し、ベッドに横になった。
ふふふ。
何ていうか、元気そうで何より。
みんなに、作って配ったんだ、クッキー。
私の為だけに作ってくれるんじゃないのが、残念。
でも、そこが、岡部の良いところ。
仲間想い。
そこに、惹かれてしまうなぁ。
あーーー!もう、私も、岡部に作ってあげたいな。
バレンタインは何も行動しなかった・・・反省。
でも、それ以前に、料理の腕を上げないと駄目だ。
そう思い立ち、ブックストアに出かける準備をした。
買うものは、難解な科学雑誌じゃない、平易な料理本だ。
作品名:無上のアフェクション 作家名:マッキー