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町内ライダー

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「しかし五代くんとかモテそうだけどねえ。爽やかだしさ」
「いやいや全然ですよ。冒険ばっかりしてたら、何か女の子と冒険仲間みたいな付き合い方しか出来なくなっちゃって……自分で火を起こして砂漠地帯でサバイバルできる子じゃないとちょっと……」
「君も大分偏ってるんだね……」
 彼女が出来ないのには、それなりの理由がある。五代雄介は間違いなく、何となく欲しいとは思っているけれども、他に夢中になる事があるため然程切実には感じていないタイプだった。
「何で俺彼女できないんだろう……欲しいのになぁ」
「取材が恋人じゃ無理だろ……俺達はそんなものを望んじゃいけないんだ……!」
(どう考えてもレンさんにべったりすぎるからだろ……普通の子は引くっつうの)
 来てからずっと憔悴し俯いた辰巳に、とうとう羽黒のツッコミが入った。それを横から眺めて城戸が、心の中だけでそっと、さらにツッコむ。
「さあさあさあ皆さん、カレーですよカレー! おやっさんの特別サービス、おかわり自由ですよ! 今日はチョコの事なんかもう忘れて、カレーフェスティバルですよ!」
「待たせすぎだ……やっと祭りの始まりだな!」
 待ちわびた様子で拳を打った浅倉に、エプロン姿のユウスケが真っ先に皿を運んでいった。つい最近ポレポレでバイトを始めた彼も、勿論本命チョコを貰う相手の当てなどない。
「僕は……僕はこんな不毛な集まりなんて……ううっ」
「そう嘆くな若いの。女なんて、いなければいないで気楽なもんだ、悪くないぞ」
 ダメージが回復しきらず項垂れたままの氷川に、翔一とは逆隣に腰掛けたおでん屋ソウジが声をかける。但し、大して気にもしていない様子で、氷川の反応は待たずにすぐにカレーを口に運ぶ。
 カレーは美味い、同士はこんなにいる。それなのに、ああ、それなのに。
 このどうしようもない虚しさは、一体何なのだろう。
 浅倉は黙々とカレーを平らげる。本当は氷川は彼を捕まえなければならないのに、それを許さない空気がこの場には満ちていた。
「剣崎さんって背も高いしいい人なんだから、彼女くらい出来ても不思議じゃないのに……」
 カレーを口に運びながら渡がしみじみと呟いたが、剣崎はそれに苦笑を返した。
「ほら俺、今まで友達もあんまりいなかったから……」
「そういえば、橘さんと剣立さんは? あの二人も彼女いないんじゃ」
「橘さんは、『矢車と一緒にされたくない、俺はチョコを貰う側よりは作る側でいたい』とか物凄く真剣に語ってた。俺には分からないけど、橘さんはきっと真剣なんだと思う。あと剣立は、会社でモテるんだよ。給料いいし。やっぱり世の中金なのかな……」
「突然寂しい事言わないでください」
 寂しげに、剣崎はどこか、ここではない遠くを見つめた。
「くそ……バレンタインさんはなぁ、バレンタインさんはなぁ、彼女に告白されて嬉しい! なんて日にするために必死に戦ったんじゃないんだぞ! 皆バレンタインさんの苦しみを思え! 今日はそういう日だ!」
「現代日本人に極めて難しい注文を付けますね。叫ぶか食べるかどっちかにしたらどうですか……無駄に暑苦しいとか言われた事ないですか?」
 半泣きの加賀美にワタルが冷静なツッコミを入れ、アスムはいい笑顔で黙々とカレーを食べている。
 あまり場の雰囲気に同化したくない乾巧も、最早観念してカレーを食している。やはり同化したくない草加、穏やかにそれを見守る木場と、啓太郎。
「アニキぃ、美味いなぁカレー……俺久しぶりだよ、こんな美味いカレー」
「今はいい……だがこれを食い終えれば、俺達はまた地獄を這いずる事になるんだ……! 俺達にとっちゃ、この輝きは幻なんだよ!」
 影山と矢車も、今日はただひたすらカレーを食べる。
 今ここには、確かに、連帯感と一体感があった。(浅倉以外の)皆が、初めて会った相手もいるのに、バレンタインとカレーのもと、気持ちを一つにしていた。
 それは勿論、この集まりを企画したおやっさんこと飾玉三郎も同様。
 バレンタインさん、モテない男にも祝福を。世の人々に、遍く祝福を。
 小春日和の冬の午後、窓から差し込む日差しは穏やか。ポレポレのカレーパーティーは、事もなく穏やかに進んでいくのだった。
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ