二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

君に伝えたい

INDEX|1ページ/1ページ|

 
雨が降っていたけれど、俺は咲とニューヨークの街を歩きたかった。

俺がこの半年間探していたものが咲だと確信して、俺は彼女と一緒にいる時間をなるべくたくさん持ちたかったんだ。閉じられた記憶の向こうから光が差し込み始めていると感じていた。「滝沢朗」だった自分を少しづつ思い出し始めていた。それは、咲と再会できたからだと思う。彼女は俺の過去と現在をつなぐ大切な鍵のような存在だと、俺は既に確信していたんだ。

咲と一緒にチェルシー地区にある移動遊園地のメリーゴーランドへ行った。半年前の俺がゴールデンリングのついているメリーゴーランドを覚えていて、咲は、そういうメリーゴーランドはけっこう古いタイプで、今ではめずらしいこと、ニューヨークのチェルシー地区にあるこの遊園地のメリーゴーランドはゴールデンリングがついているめずらしいタイプであることを、調べていた。ここのメリーゴーランドが、「滝沢朗」の昔の記憶と結びついているのではないか。咲はそう俺に説明してくれた。

咲は姿を消した俺の行方を追うために一生懸命手がかりを探してくれたらしい。こんなかよわそうな女のコ一人で、半年前に姿を消した「俺」を探すために、あちこち調べて、訪ね歩いてくれて。どんなにつらかったろう。どんなに心細かったろう。


半年前の「俺」は、それほど彼女にとって大切な存在だったのだろうか。咲に探しているのは「元カレか?」と聞いたとき、彼女はそんなんじゃないって否定したけれど。俺は、彼女が自分にとってものすごく大切な存在だと、そのはずだと、思わずにはいられなかった。半年前の俺にとっても。今の俺にとっても。


俺は咲を一番白い木馬を選んで乗せて、自分も後ろから乗った。メリーゴーランドが動き出す。俺は彼女を後ろからそっと抱いた。咲は腰に回した俺の手に自分の手をそっと重ねた。

(この感覚・・・)

咲を背中から抱いている、このやわらかで、あたたかい感覚。咲と俺の重なる手。シアワセだけど、なぜかとても切ない。俺はその感覚を、やわらかさを、この胸を焦がすような切なさを、前から知っていると思った。同じように、咲を後ろから抱きしめていたことがある・・・。彼女のあたたかさを、やわらかさを、俺は知ってる・・・。俺は、咲が自分にとって、かけがえのない存在だということを、頭よりも心で、心の深い所で悟った。

(だから、俺は咲に伝言を残したんだ、俺をみつけてほしいと。「君と旅した場所にずっといる」と、咲に伝言を残したんだ。咲に俺を見つけてもらって・・・そうしたら、俺は絶対彼女を思い出すって、半年前の俺は確信してたんだ・・・)

ゴールデンリングを取ろうとした彼女がリングを掴みそこなったのを見て、俺は自分でさっと取った。

「もう一回乗りなよ。俺、あそこから見てるから」

そう言って、俺は彼女を木馬に残し、向かいのベンチに座った。


雨が降っていた。でも、メリーゴーランドに乗っている咲の姿を見ていると、雨も気にならなかった。むしろ、やさしい雨が心地よかった。

くるくる回る木馬を見ているうちに、俺の記憶に、ニューヨークに暮らしていた子供の頃の日々が、ちょうど本のページがしおりがはさんであるところにページがめくれるように、甦った。

「あの頃・・・お袋は俺に映画ばっかり見せてて・・・。だから、遊園地に連れてきてもらったときは、すごく嬉しかった・・・何回もメリーゴーランド乗りたくて、ゴールデンリングを一生懸命とって・・・」

お袋と過ごした時間が、まるで映画のフィルムでも見るように、さあっと俺の頭の中を流れていった。

(咲のおかげだ・・・)

咲がニューヨークに来てくれて、俺を見つけ出してくれていて。過去の時間への扉を少しづつ開いてくれる。咲の存在は、俺という存在を、俺が過ごしてきた時間を、束ねてくれるリボンのようだ。


「滝沢くん!濡れちゃうよ!」
木馬に乗った咲が、雨に打たれている俺を心配して声をあげる。
「大丈夫!君のこと、ここから見ていたいんだ!」
俺は片手を振って、彼女に笑顔で答える。


そう、メリーゴーランドと咲。そして、俺の手にはゴールデンリング。
その組み合わせが、俺にとって、とても大切で、俺という存在に欠かせないもの。俺はそう感じていた。

いつまでも、咲を見ていたい。
メリーゴーランドでくるくるまわる、かわいい咲を見ていたい。
俺と咲。二人だけの時間。
このまま、ずっと。ずっと続けばいい、この時間が。
俺の正体も、携帯の正体も、ジュイスの正体も。今は忘れて。
咲と一緒に、俺はただ楽しい時間を過ごしていたかった。

咲を見ていると、どうしてこんなにシアワセな気持ちになるんだろう。
咲がそばにいてくれると、どうしてこんなにあたたかな気持ちになるんだろう。
その答を、本当は俺はもう知っているんだ。

(咲・・・。咲も、俺のこと・・・俺と同じように思ってくれてるのかな・・・そう思っていいのかな)

メリーゴーランドが止まったら。
メリーゴーランドから咲が降りたら。
咲に聞いてみよう。

半年前、俺と君は恋人同士だったんだよね?
今でも、俺のこと、好きだって思ってもいい?
俺のこと好きだから、探しにきてくれたって思っていい?
再会した俺は、君が探し続けた俺だった?
半年前、君に、俺はちゃんと気持ちを伝えたのかな?何と伝えたのかな?


大切な咲。
決して忘れたくない存在。
ずっとそばにいてほしいヒト。

半年前の俺と、今の俺と。両方の俺が、そう君に伝えたいんだ。

俺は、止まったメリーゴーランドから降りてくる咲を迎えに、ベンチを立って近づいていった。





作品名:君に伝えたい 作家名:なつの