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藤ノ宮 綾音
藤ノ宮 綾音
novelistID. 27764
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emotional 03

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 「ビッ、ビックリした……か、雷?」
 「みたい……だな」

 真っ暗になった室内。
 激しい雨の音が響く。

 「足元に気をつけろ、部屋に戻る」
 「待っ、うわっ!」
 「駆!」

 すぐに離れようとした俺を捕まえようしたのか伸びてきた駆の手が空を切りバランスを崩して倒れそうになっている姿を一瞬の雷の光で見てしまい、慌てて手を伸ばすとソファに足を取られそのまま倒れこむ。

 「だっ大丈夫か?」
 「うっうん」

 ソファに押し倒す体制になってしまった。
 自分のすぐ傍に駆がいる。
 心臓がドンドン早く高鳴っていく。

 マズイ。

 「部屋に」
 「にっ兄ちゃんはっ」
 「?」
 「兄ちゃんはっ!僕のことが嫌いなんだ!!」
 「!?」

 戻ろうと離れようとした手を捕まれ止められたと思うと、組している駆がボソボソと呟き始めた。
 震える手と震える声でしっかりと言葉を紡ぎ始める。

 「だからっ、だから僕を見ないんだっ」
 「駆……」
 「だから、僕を……避けるんだっ」
 「ちがっ」
 「違わないよ!!!」

 普段は大人しい駆がこんな風に声をあげて怒るなんて、俺はかなり驚いた。
 瞳から涙を流し必死に言葉を紡ぐ駆を見ると、また胸が高鳴る。

 やめろ、離れろ、駄目だ。

 「どうして……ッ」
 「駆、離せ」
 「ッ!そんなにっ!」
 「駆」
 「そんなに僕の事嫌いなの!?」

 違う、そうじゃない、だけど、今は駄目なんだ。
 泣いているお前を見ると胸が苦しくなる。
 慰めたい、だけど、今の俺には無理なんだ。

 「離せ、駆」
 「兄ちゃんッ……ねがっ……ぃ」
 「かけっ」
 「嫌いに……ならないで……お願いッ」

 頭の中でブツッと何かが切れる音がした。
 激しい雨の音も、鳴り響いている雷の音も全て消える。

 「ンッ!?」

 重なる唇。
 柔らかい感触。
 近くに感じる駆の体温。

 限界だった。

 唇を重ねながらゆっくりと瞳を開けば、こちらを泣きながら唖然と見つめる瞳があった。

 今まで必死に築いてきた関係も、お前が俺に抱いていた憧れもこれで無くなる。

 ごめん。

 意思の弱い兄でごめんな。

 だけど、今だけ、この最後の瞬間をもう少しだけ感じさせてくれ。
 
作品名:emotional 03 作家名:藤ノ宮 綾音