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空が高い。
雲は低い。
手も届く。
全てを浚うように風が吹き抜けて視界に自分の黒髪がちらついた。
屋上から見下ろすこの町が一番好きだった。
地平まで続く町。
小さな小さな僕の町。
手を伸ばしてフェンスに指を絡めた。
勢いを弱めた風が手を撫でた。
彼の手が触れる感触に似ていた。
目を閉じた。
空気を吸い込む。
やがて春が来る。
雪の匂いに土の匂いが混じっている。
雪解けだ。
目を開けた。
彼の匂いがした。
噎せるほど強く。
空を仰いだ。
光を孕んで雲が流れる。
その金色に彼の面影を見た。
今は地球の裏にいるあの男を思った。
あぁ、焦げ付く。
深みに落ちてく。
いつの間にかあなたの思惑。
ほら見ろと勝ち誇るように笑うあなたの顔が見える。
ただあなたはひとつ忘れている。
あなたが惚れたのがこの僕だという事を。
ただで落ちるわけがないじゃない。
あなたも道連れ。
二人落ちる。
戻れやしない。
その必要もない。
それを誰かは罪と言う。
けれど貴方は恋と呼ぶ。
ならば僕はただ笑う。
今にも肌を突き破ろうともがくこの想いに名前も形も要らない。
ただ貴方と僕がいればいい。
簡単だ。
もうわかったなら早く帰って来なよ。
-END-