もう恋なんてしない
きっと俺が君のそばにいたら傷つけてしまうから。
だからといって君から別れを告げられるのは俺には耐えられないから。
だから先に言ってしまえば楽になれると思ったんだ。
「わかり、ました・・・」
君は俯いて、少し涙が入り交じった声で言った。
「僕は、臨也さんと恋人になれて良かったです。
短い時間でもとても楽しかった。」
世界の終わりを前にしたように泣きじゃくった姿を見たいと思っていた。
だから別れを告げた今なら見せてくれると思ったのに。
帝人君はいつもみたいな笑顔に涙を浮かべてた。
「・・・それじゃあね。」
今の間で俺がまだ帝人君を好きだってことに気付かれなかっただろうか。
背中を向けてしまった今、君の顔が見えないのがもう耐えられない。
「臨也さん。」
静かに呼ばれた名前に思わず心臓が跳ねる。
もう一度呼び戻してくれるんじゃないかって。
別れを告げたのが俺からでも、別れたくないって言って俺を引き止めてくれるんじゃないかって。
「僕にとって臨也さんが初恋、でした。
だから、こんなに別れが辛くて、悲しくて、苦しいって初めて知りました。
でも、また恋、してみようって思います。
あなたと過ごした時間はとても幸せだったから。」
俺は、一旦止めた足を進めた。
もう立ち止まったり、振り返ったりしない。
俺が離れることで君が守れるなら、それでいいんだから。
でもね、帝人君。
どうせ最後なら言って欲しかったんだ。
俺が聞きたかったのは『また恋をしたい』って言葉じゃない。
でも、俺は俺が聞きたかった言葉を君に贈るよ。
━━━━『もう恋なんてしない』って