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電話線が僕にくれるもの、君に隠すもの

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風呂上り、ズボンを履く叶の動きを止めたのは電話の音だった。
とりあえず中途半端な位置にあったズボンを引き上げてから時計を見ると、既に十一時を回っている。
こんな時間に掛けて来る相手なんて見当も付かず、けれど早く取れと急かすように高い電子音を響かせる電話を無視する事なんて出来なかった。
乱暴な手付きで髪の毛の水分を拭いながら、短く応答する。

すると、少し躊躇ったかのような間の後に、聞き慣れた低音が耳を撫でる。


「…ああ、叶?」


聞き慣れた、とは言っても電話越しに聴くのは初めてだった。
それによる、叶の僅かな動揺を見越したように、織田は部活用の連絡網から電話番号を知ったのだと口にする。
そして遅くに堪忍ななどとお決まりの台詞を言った後、声が途切れる。

手段や謝罪ではなく、叶が一番聞きたい「理由」については一向に話し出そうとしない織田に少しだけ焦れた。苛々した。
本当の本当は、その根源にあるのは期待、だ。
事務的な用事なんかではなく、もっと自分を喜ばせてくれる理由である予想は付いていた。それに期待も付いて回るから、早く聞かせて欲しくて苛立ちを生む。

急かすように叶が「で、何?」と発すると、それが背中を押したらしい。
ひゅっと息を吸い込む覚悟の音が聞こえて、叶も身構える。


「叶の声が、聞きたくなってん」


予想を裏切らない甘い言葉に、思わず笑ってしまった。
頬を緩ませるのは、「ああ、織田は馬鹿な奴だよなぁ」なんて、簡単に心を見透かされた恋人に対する優越感だけじゃ、ない。

悔しいけど、嬉しいなんて思ってしまう。


(あー、俺のが馬鹿かも)


それを素直に伝えるのは何だか悔しくて、声を低く保つ。


「ばあか、明日部活で会えんだろ?」

「せやねんけどな…寝る前に突然、てヤツや」


ふにゃっと緩んだ声から、眉毛を垂らして情けなく笑う織田の顔を頭に浮かべるのは容易だった。
そして、それにまた頬が緩む。


「ふぅん、やっぱばかだな」


けれど、声に乗せるのは小さな棘。この優越感を、織田にも与えるのは少し癪だから。
笑うのを我慢しないで良い、というのは、強がりな自分にはとても助かると思った。


それから三十分程、他愛のない会話を交わした。
電話を切って部屋に戻ろうとすると、母が怖いくらい満面の笑みで目の前に立っていて心臓が跳ねた。


「電話している間ずーっとにこにこ笑ってたわね。お友達?」


驚かせるなよ!そう、喉まで出掛かっていた怒声を引っ込めるくらいの威力が、その一言にはあって。
気付いてなかったわけじゃない。現に今でも緩みきった顔の筋肉は引き締めるのが難しいくらいで、それでもぎゅっと唇を引き結んだ。改めて指摘されると顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。いや実際、髪の毛の水分が蒸発して湯気くらいは出ていたかも知れない。それぐらい。
無理に引き締めたせいで変な表情になりつつも、仏頂面のつもりで母親を一睨みした叶は「関係ないだろっ」と言い放って部屋を出た。

自分が、自分で思っていたよりもずっとずっと織田の事を好きなのだと、嫌でも思い知らされて。

自分の部屋に戻って布団に潜り込んでも、目を閉じればはっきりと響く織田の声。


幸せ、なのと同じくらい、悔しい。



悔しいのに、頭を愛しい人の声が支配するのは、やっぱり幸せで。


(今度は絶対ェ、電話でも笑わないようにする!)


心に決めた誓いは、けれど同時にまた電話をすると無意識に決めている事に、叶は気づかない。