Happy Birthday....
臨也は右手に花束を持ちながら言った。
「帝人君。いつだったか俺が君に誕生花について話したのを覚えてるかい?君の誕生花はマダガスカルジャスミンだったよね…たしか。
夏を中心に春から秋まで芳香のある白い花を咲かせる…つる性の植物。“ジャスミン”って名前がついてるけど実際は本家のジャスミンとは縁のない…別種の花なんだよね。
帝人君は3月産まれなのにこの花…3月には咲かないんだよ?おかしいよね。」
そう言うと臨也は一人で微笑みながら空を見上げた。
気温はまだ低いが今日は雲1つ無いと言って良いほどの快晴だった。
「花言葉は“二人で遠くへ旅を“とか“清らかな祈り”とかだったよね。
あぁ、そうだ。
それで君と一緒に君の誕生日に何処か遠い所に二人きりで旅行に行こうって言ってたよね…。
ごめんね。仕事が忙しくて毎年連休がとれなくて…結局行けなくて……。」
柔らかな風が臨也の髪を揺すった。
「………なんか俺って君に何にもしてあげれてないよね…。“帝人君の彼氏”とかさんざん言っておきながら…結局俺は…君に何一つ出来てなかったんだね……。」
静かに時だけがただただ流れて行った。
「………帝人……く……んっ……。ごめん………。ごめんねっ………うっ…うぅ……帝人君……っ。」
臨也はそのまま膝から泣き崩れると右手に握っていた菊の花束強く強く強く握った。
竜ヶ峰帝人が池袋から…この世という世界から存在が消えたのは3年前の3月21日。その日は帝人の誕生日であり二人が付き合って2年目の記念日だった。
臨也は例年通り、21日の0時ピッタリに帝人のアパートを訪れた。だが、ドアを開けた時には帝人の姿はなくただ暗闇だけが部屋に広がっていた。そこに広がる暗闇は帝人の存在をも否定しているかのようだった。
(帝人君がいない…。)
ただそれだけが臨也の頭の中を埋めつくしていた。
とにかく自分の持っているつてを使い一刻も早く帝人に会いたかった。どう考えてもこんな時間に、それも帝人自身の誕生日に居ないなんて有り得ないことだった。
どれくらいの人に連絡をとりながらどれくらい走ったのか分からないがやっと帝人の居場所が分かったのだ。
さっきまで寒いと感じていた気温も今となっては暑いと感じるくらいになっていた。
帝人は寂れた倉庫にただ一人で横たわっていた。
帝人の制服は銃弾が心臓を射たせいで真っ赤に染まっていたが、遠くから見れば帝人の姿は寝ているかのようで一瞬臨也も帝人の生について希望をもったが、近づいて帝人の細い体を抱き寄せればやはり少年の体はとても冷たく固くなってきていた。
「…………ぅっ…………う……。……………み…かど………くん…………。俺…の……………お……れの………せいで…………ごめん…………。ご……………めん…………ね………。」
暗く寂しい倉庫にはただ臨也の嗚咽だけが大きく響きわたっていた。
それから帝人の葬儀などは淡々と行われていった。
臨也は何かをするわけでもなくただそのようすを見ていた。
いや、臨也の様子は“見ていた”というよりも“ただ見ていることしか出来なかった”という方が正しかった。
周りの人達は臨也が帝人の復讐をするのではないのかと心配したが、今の臨也は余りにも無で、何処かに心を置いてきたかのようだった。
そんな臨也の様子に周りの人達は声をかけたかったがあまりの臨也の様子に声をかけることが出来なかったのだ。
そして現在もなお、青年の心は救われてない。
もしかしたら、青年はもう二度少年に見せた様な笑顔や少年に掛けた声を出すことは無いのかもしれない。
そして青年は傷だらけの心を引きずりながら、毎年少年に罪滅ぼしをしに来るのだろう。
「帝人君………。ごめんね…。ご……めん………ねっ………。」
青年は今年も愛した少年の墓を涙で濡らして行きます。
青年は自分の身が滅ぶまできっと毎年この場へと足を運ぶだろう。
「帝人君…ごめんね……っ。愛してるよ……っ。」
青年の声は3月にしては少し暖かく優しい春風によりかき消された。
作品名:Happy Birthday.... 作家名:悠久