Happy Birthday 帝人ちゃん・・・
君と付き合いはじめたのは確か君がまだ中学生の頃だったよね。
ネットで知り合って、それから連絡をとるようになって、時々俺が君に会いに行って。
まあ、世間一般でいう遠距離恋愛をしていたよね。」
オフィスのソファーに座りながらぺらぺらと目を閉じながら話す臨也に“帝人ちゃん”と呼ばれた彼女はただ「はい、そうですね。」と適当に相槌を打ちながらPCに向かっていた。
「ねぇ…帝人ちゃん。俺、夢が有るんだ。」
何時もの彼を知っているものが居たら、今の彼をきっと笑うだろう。
何故なら皆、彼のこんなに優しい声を知らないし、彼の口から“夢”が有るなどという台詞が出ること事態想像すら出来ないからである。
勿論、彼女もそのうちの一人だ。
「へぇ…。貴方にもまだそんな人間らしい考えがあったんですね。」
「違うよ。君のせいで俺はこうなったんだ。」
「まるで僕が悪いみたいな言い方ですね…。」
「うん。君は…帝人ちゃんは俺の想像以上の事を常にしてくれているよ。
だからこそ、今もこうして付き合っているんだ。」
「じゃあ…、僕が貴方の予想通りの反応を常にしてしまえば貴方にはもう僕は要らない…ということですか?」
キーボードを打つ手は止まらないが先程に比べて帝人の話している声のトーンが少し低くなる。
しかしそんな帝人とは対照的に臨也の声の質は相変わらずである。
「はははっ…そんなわけないだろ。君だってそれは理解しているはずだ。」
そう言いながら臨也は帝人が座っている椅子の背後へと回り、マウスを持っている帝人の手に自らの手を重ねた。
「貴方の言葉には何時だって裏があります。そんな貴方の言葉を信じろだなんて……。」
「うん。そうだね。それに俺だってそんなことは理解しているよ。」
「だったらそんなこと言わ……」
帝人の放った言葉は臨也の唇に吸い込まれる。
話をしていた為、口が開いていた帝人の口内に臨也の舌が入り込んでくる。
「んっ……!」
マウスを握っていた右手の上には相変わらず臨也の手が重ねられたままであり、ただどうすることもできないまま帝人は臨也のキスを受け入れ続けた。
臨也は角度を変えながら何度も何度も長いキスをし、綺麗に歯をなぞり、キスする度にそれは深いものへと変わっていった。
「ふっ……んっ……んんっ………ふっ…ぁ……あっ………。」
最後はリップ音をたてながら臨也はそっと帝人から唇を離した。
帝人の目には生理的な涙がうっすらと浮かび、顔は先程のキスの所為か紅く染まっていた。
「ねぇ…帝人ちゃん……。俺には夢が有るんだ…。」
臨也の手は相変わらず帝人の手から離れていない。
しかしその手はそのままで帝人を後ろからそっと抱き締めた。
「帝人ちゃん。俺…帝人ちゃんの子供が欲しいんだ……。
今すぐじゃなくていい……。直ぐじゃなくていいんだ…。
何時か…君との子供が欲しいんだ……。」
抱き締めていた臨也の手と帝人の手を握っていた手に力がこもる。
「ねぇ…帝人ちゃん……。
結婚しようよ…。
結婚して、俺と一緒に住もうよ…。
君は家に居てくれればいい…。俺の側にずっと居て……。」
そう言うとずっと握っていた帝人の右手から手を離し、反対の手をつかんで薬指にすっと指輪をはめた。
「帝人ちゃん…。帝人ちゃん……。」
何度も青年は彼女の細い身体を抱き締めて名前を呼び続けた。
彼女もまた、青年の身体に腕を回し抱き締めた。
何度目かの名前を青年が呼んだとき彼女はゆっくりと静かに話し始めた。
「臨也さん。すみません……。
僕にはまだ、“はい”と言う事が出来ません……。
ちゃんと…高校を卒業して……答えを出したいと思います。
でも…好きです……好きですよ…臨也さん。
愛しています…。
だからこれは…その時まで…高校を卒業するその時まで……大切にとっておいて良いですか…?」
帝人は臨也の背中に回した自分の左手にはめてある指輪を右手で愛しそうに撫でた。
「……………そうだね…。
君には嫌われたくないから……ゆっくりと待つことにするよ……。」
「ふふふっ……。
臨也さん……。でも、同居の件は近いうちに答えを出したいと思います。」
「えっ……?」
「“えっ?”じゃないですよ!臨也さんが言った事じゃないですか!」
「いや…まぁそう……だ…けど………。」
帝人は歯切れの悪い臨也に対して、すっと身体を離した。
そして両手を臨也の顔に添えて軽く触れるだけのキスをした。
「臨也さん…。ちゃんと…ちゃんと待ってて下さいよ…。
浮気したら…ボールペン……ですからね。」
「うん…挑むところだよ。」
そう言って二人はまた軽いキスを交わして微笑みあった。
作品名:Happy Birthday 帝人ちゃん・・・ 作家名:悠久