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“別れよう”

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何時だって霧野先輩の目には俺じゃなくて神童先輩がいる。
それが辛くて俺は、霧野先輩に告白をしたんだ。
断れたら断られるでこの気持ちにも諦めがつくし…。
でも、告白するなら誰だって自分の恋を実らせたいだろう?
だから、卑怯だと分かっていても、この言葉が嘘だとバレたら嫌われると知っていても、霧野先輩に告白をしたんだ。
全ては俺の計算通りだったんだ。



(あの時の俺は、付き合えば何かが変わると思っていたのだろうか…?)

今更ながらそんな事を考える。

(でもまあ、そう思わなければあんな風には告白はしないだろうな……)

練習中だと言うのに自然と口からは大きな溜め息が溢れる。


俺が告白してから今日で三ヶ月がたつ。
だから、今日━━━━━


“別れよう”




部活終了時間が刻々と迫るにつれ、俺の気持ちは憂鬱になっていく。
そして本日何度目かの溜め息をまたついた。

「狩屋っ!ちょっと良いか?」

後ろから恋人の声がかかり、俺はゆっくりと振り返った。

「なんですか?霧野先輩?」

「……今日、ちょっと帰りに話さないか?」

「………はい…。
……………俺も丁度話があったんですよ…。」

「……そうか…。じゃあ後でな…。」

話が終ると監督の部活終了の声がかかった。












あれから、着替えをしてメンバーと別れてを今は霧野先輩と部室で二人きりだ。

暫くの間沈黙が続いた。
それが耐えきれなくなったのか先輩がまず先に口を開いた。

「……あ…の……。狩屋………。
話って言うのは…その……………。」

「あのっ!霧野先輩っ!!
俺から話しをしても良いですか!?」

「へっ?あ……いや………ああ。」

(とうとう…この時が……来たか……。
声…震えないかな……?あーまず言えんのかな……?)

そんな事が頭の中でぐちゃぐちゃと入り交じって少し頭が痛くなったが、話すなら直ぐに話して帰ろうと思った。
その方が多分、傷付かずに済むと思ったから。

「霧野先輩……。あの……。

“別れましょう”か……。」

「……え?」

「だから、“別れましょう”」

「な……んで……?」

先輩の震えた声が俺の鼓膜を揺らす。

「覚えていますか…?
俺が霧野先輩に告白した日のこと……」

俺はあの時の事を今でも鮮明に覚えている。
息を調え、目を閉じながらあの時の事を思い出す。
そして、俺は自分の狡さを彼に告白する。

「俺はあの時、霧野先輩に“神童先輩に霧野先輩の気持ち伝えてもいいんですか?”って言えば霧野先輩は大人しく俺の告白を受け入れるだろうって分かってたんですよ…。
だって霧野先輩は神童先輩との今の距離感、関係を崩したくないでしょう?
………思ったとおりでしたよ。
先輩は俺に泣きながら“付き合うから…っ、それだけは止めてくれっ!!”って必死に何度も何度も俺にいってきましたね。
本当に、計画通り行きすぎて少しつまらなかったですが…。」

(落ち着け……落ち着くんだ……大丈夫………。俺ならできる……。
なるべく、なるべく…先輩が傷付かないように……。
あと少し……あと少しだから……)

「だから…霧野先輩……っっ!!!?

な、何で…何で泣いてるんですかっ!!?」

霧野先輩をみると大きく美しい瞳からポロポロとただ静に涙を流していた。

「うっ……るさ……っっ!!来るなっ…っ!!」

「泣いてる人間を平気で放って置くような人間になれってことですかっ!!!?」

先輩が泣きながら口にした“来るな”という言葉を言ってきた事が思ったよりも悲しかったらしい俺は少しキレながら霧野先輩の腕を掴んだ。

「は……っなせ……っ!!」

「嫌です」

「バ狩屋には……っっ…関係ないだろっ!!!」

「バ狩屋ってなんですかっ!?それに関係無いってっっ!!」

「おま……えは…っ、俺のこと…っっ……き………嫌いに………っっ。
嫌いになったんだろっ!!!!
だったらもう……っっ!!関係無いだろっ!!」

「関係無いなんてことはありませんっ!!
だって俺、嫌いになんかなってないですよっ!!」

「嘘つくなよっ!!
じゃあ何で別れるなんて……っ言うんだよっっ!!!?」

「それはっ!!
霧野先輩が俺と付き合ってからもずっとずっと……。
何時だって俺じゃなくて神童先輩を見ていたからですよっ!!!!
だから、もう……もう…
別れようと思ったんですよっ!!」

「………え?」

ここまで話して俺は『しまったっ!!』と口に両手を当てた。
つい、熱くなり余計な事までベラベラと勢いで言ってしまった。
俺が方針状態でいると先輩が声をかけてきた。

「狩屋……。その……悪かった。」

「なにが…ですか…?」

「俺が…俺がはっきり言わないせいで……。
お前にそんなに悩ませてたんだな……。

一回しか言わないから……しっかりと聞けよ……。」

霧野先輩は俺の方へと正面を向きなおして真っ直ぐに俺を見ていった。

「好きだぞ…狩屋……。」

そして先輩は勢い任せに軽く触れるだけのキスをしてきた。
初めての先輩からのキスに俺は驚きを隠せなかった。

「えっ?今、キス…。ちょっと……えっ?“好き”?」

「なんだよ…」

先輩の顔を見ると顔だけでなく耳までもが赤色に染まっていた。

「だって霧野先輩は……」

「そ、それはっ!前までの話だろっ!!
そうじゃなかったら三ヶ月もお前と付き合わないっ!!」

「でも…、俺は……。
計画で霧野先輩を無理矢理………。
そんな……そんな最低な人間何ですよ………?」

思いもよらぬ展開に思わず声が震えた。

「付き合って…はじめの頃は……。
本当にお前の事が、大嫌いだったんだ…。
だけど……。
付き合って、日にちを重ねるごとに俺はお前にひかれていったんだ。
だから、そんなもの……俺には関係無い。
俺は…神童じゃなくて狩屋…。
お前がいいんだ……。
お前とじゃなきゃ、駄目なんだよ…」

話終わる頃には先輩の顔は先程よりも更に赤くなっていた。

「えっと……。いいんですか……?俺で…?」

「何度も言わせるなっ!バ狩屋!!」

「……はいっ。
じゃあ、これからもよろしくお願いしますね…?
蘭丸先輩。」

「いまっ…名前……っ!!」

「どうしました?蘭丸先輩?」

「っっっ!!!!だから…っ!名前っ!!」

「あー、蘭丸先輩…。顔赤いですよ?」

そう言いながら俺は先輩にそっとキスをした。
本当は舌まで入れたかったがこのままだと先輩は頭に血が昇りすぎて倒れてしまうからそれは止めておいた。

「蘭丸先輩…俺も、大好きですよ」

先輩が初めてはっきりと口にして俺に“好き”だと言ってくれた付き合って三ヶ月の今日を、先輩が初めて自分から俺に“キス”をしてくれた付き合って三ヶ月目の日を、俺はこれからも忘れずに、大切に俺の中のアルバムへとしまっておこうと思う。

(こんな卑怯で狡い俺を好きになってくれてありがとうございます…蘭丸先輩。)














「そう言えば蘭丸先輩。俺に話って何だったんですか…?」

「あ……いやその……。たいした用事じゃないぞっ!!」

「じゃあ、言っても良いじゃないですか?
作品名:“別れよう” 作家名:悠久