“初めて”を君に・・・
(これを世間一般では“放課後デート”と言い表すんだろうか…)
霧野蘭丸は相手の話を聞く傍らそんな事を考えていた。
(まあ、男同士でこんなところに来ててもただの彼女がいない寂しい男だと思われるんだろうな…)
本日の蘭丸の結論が出たと同時にマサキはとんでもない事を言い出した。
「そう言えば霧野先輩のファーストキスっていつ誰としたんですか?」
蘭丸は思わず口に含んでいる食べ物を吹き出しそうになった。
それを無理矢理抑えジュースを飲み、口に含んでいた食べ物を一気に体の中へと流し込んだ。
「こほっ……っ。お前っ!な、何をいきなり……その………っ。」
「え?ああ。ファーストキスですか?」
マサキの口から“キス”という言葉を聞くたびに彼としてきた様々なキスを思いだし反射的に蘭丸の顔は赤くなった。
ここで会話を止めてしまってはマサキにからかわれると思いとりあえず会話を続ける事にした。
「そう、だよっ!!」
「で、誰としたんですか?」
「な…なんでお前に言わなきゃ……」
「良いじゃないですか。俺達付き合ってるんだし。」
「おまっ!!よくこんな公共の場でそんなどうどうとっ!!」
「霧野先輩のこと好きだから別にいいんです」
「~っっ!!だかっらっっ!!お前はっ!」
自分の顔が先程よりも熱を帯びた事を蘭丸は感じ、更に羞恥心が込み上げてきたためアイテヲ軽く睨み付けた。
そんな事をしても更にマサキを喜ばせるだけだとは知らずに。
「で、誰なんですか…?」
徐々にマサキが蘭丸の顔に迫っていき蘭丸は動けなくなり、この質問に対する答えを言わざる終えない状況になってしまった。
蘭丸は一度マサキから目線を外しうつむき自分の指先をみながら話始めた。
「あ…相手はその……。
しん……どう…なんだが…。
別に、そのっ…す、すすっ好き……とか、そう言うんじゃなくてだな……っ。
幼稚園のお遊戯会で白雪姫をやって…その……。
一言で言えば…不慮の事故って奴で……。
神童が白雪姫で…その……何故か俺が…。
王子様の役をやって……。
あ、いや…。本当はするふりだったんだが……。
その……。つい、足が滑って………そのまま…………。」
「そして霧野先輩のファーストキスは呆気なく神童先輩に注いでしまった…と。」
「は……い…。」
蘭丸は先程に比べて雰囲気や声の調子がかなり下がったマサキの質問にただ敬語を使い、返事をして頷いた。
「ふーん…。他には神童先輩と何しました?」
「へっ!?ほ、他!?特には……。」
「とりあえず、キス以外でしたこと全部教えて下さい。」
「全部っ!!!?」
「はい。」
呆気に取られている蘭丸を尻目にマサキは早くしろと言うような目でただじっと蘭丸を見ていた。
「うっ……。
えっと……。まず…手握ったり…食べさせ合いしたり……。ああ、あと……一緒に寝たり……お風呂も一緒に入ったり……なんかした……な。
あっ!でも小学3年生位までだぞ?」
「へー…。
そんなにしてたんですか…。
しかも、小3まで……」
マサキはそう言うと少し冷めてしまったポテトをつまみ、蘭丸へと差し出した。
「霧野先輩。“あーん”してください。
ほら、あーんですよ?」
蘭丸はマサキが何をするのかと思えば自分にポテトを向けて来るので一瞬ぽかんとしてしまいマサキが言っていることに対して反応が遅れた。
「い、いや…なんでそうなるんだよっ!
しかも、こんな人がいる中でっっ!!」
「でも、神童先輩とはしたんですよね?
あ、それとも回りに誰もいない状態で隠れながらしてたんですか?」
「違うっ……けどっ!!
あれは、小さい頃の話でっっ!!」
「でも、やったのには変わり無いんですよね?」
みるみるうちにマサキの声のトーンは下がっていき、それが蘭丸に焦りを感じさせた。
「そう……だけどっ…。」
「じゃあ、あーんしてくださいよ。霧野先輩。」
どうやら逃げ道は無いらしいと理解した蘭丸は恐る恐る口を開き少しずつマサキが手にしているポテトをかじっていった。
(ま、わりの……視線が…っ。)
蘭丸は必要以上に回りに居る人々の視線を強く感じ恥ずかしさで涙が出そうになった。
そしてやっとの思いでポテトを食べ終えると蘭丸はマサキの顔を見た。
「えっ?」
思わず口から出た自分の言葉よりも目の前に居るマサキの表情の方に気を取られた。
(顔……少し赤い……?)
そう蘭丸が心の中で思った瞬間にマサキは勢いよく自分の席から立ち上がり蘭丸の手を取りファーストフード店を後にした。
作品名:“初めて”を君に・・・ 作家名:悠久