比翼連理=Fobidden Fruit=
冥界独特の甘く絡みつくような重い空気―――。
ハーデスが傍にいる間はさほど感じなかったが、離れたときから感じた闇の圧力。広間ではさほど強いものではなかったが、この部屋に入った途端、何十倍もの質量を伴って重く圧し掛かってきた。実際のところ、こうやって立っているのもツライものがあった。
「少し、横になってもよいか?」
「地上とは違って、芳醇なここの空気はそなたには重いであろうな。特にこの部屋は厳重に守られているゆえに...ゆうるりと休むがよい、何かあれば妾を呼べ」
「承知した」
「それから、ここはある種の結界が張られている。不用意に部屋から出ぬように」
「ハッ!籠の鳥だな」
「そなたのため。先ほど申したようにそなたの存在を疎む者もおる」
そう告げるとパンドラは扉の外へと姿を消した。見届けたのち、倒れ込むようにシャカは寝台に身を投げた。
「はぁ......」
深海の底にまで届くのではないかと思われるほどの深い息をひとつつき、なめらかに滑る絹のシーツに手を伸ばす。
―――押し潰されるほどの闇の圧力。
押し寄せる波の光のように輝いてもいるようにも感じる。すなわち、これは冥王の想いでもあるのだろう。離れていても私を抱き続ける闇は、守るためなのか、逃さぬためなのか......。
散らばる輝く髪を指先で玩びながら、重くなっていく瞼のままにシャカは意識を解放した。
作品名:比翼連理=Fobidden Fruit= 作家名:千珠