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比翼連理 〜 緋天滄溟 〜

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「シャカの命はない―――と、間違いなくその者は言ったのですね?ムウ」
「はい」
 一方、聖域では突然舞い戻ってきたムウに驚きながら、ムウが持ち得た情報にアテナもサガも一様に顔を曇らせていた。聖域に忍び寄る影の存在。誰しもが不安を抱かずにはいられなかった。
「我らが与り知らぬところで何が起こっているのか……アテナ、その言葉をそのまま受け入れるのは危険かと思います。ここはしばらく、様子を見たほうがいいのではないでしょうか?」
「ですが、サガ。もしも……そのことが真実ならば、シャカが危険に曝されることになるのではないでしょうか」
 やんわりとアテナはサガを牽制するが、サガは譲るつもりはないようだった。
「たとえ―――そうだとしても。シャカは黄金聖闘士です。その脅迫に屈することは……避けるべきではないでしょうか。大体、ハーデスたち冥界側の動きがよくわからないのです。その背後で動き回っている者の存在も」
 サガが言うことも尤もかもしれないと考え込むアテナに今度はムウが言葉を強くした。
「手をこまねいているうちに後手後手に回ってもよいと?」
 挑戦的な物言いのムウに僅かに眉を寄せたサガは反論するかのように、そのまま沈黙を貫いた。気まずい雰囲気にアテナは苦笑を浮かべる。
「冷静に考えればサガの言うとおりなのだと思います。ですが、感情的には……やはりムウのように後手後手に回したくはないのです。サガ、私の我侭を聞いて―――!?」
 途中でアテナは言葉を失くした様に口元を両手で覆い、驚きに目を大きく瞠り、絶句した。アテナの瞳はサガやムウを過ぎた背後に向けられていた。不審に思った二人が振り返ると、そこにはカノンが立っていた。顔はひどく青褪め、こわばり、身体は震えさえしていた。
「カノ…ン?」
「これを―――」
 尋常ならざるカノンの様子を心配しながらも、その身から匂い立つ闇の気配にサガやムウは警戒し、ほぼ条件反射的といってもいいほど無意識に小宇宙を高めようとするのをアテナは制した。
「これを.……アテナに……こんなもの……地上に…あっては…ぐ……っ!」
「カノン!」
 どさりと均衡を失くした体が前のめりになって倒れた。硬い音を伴って、不吉な闇を纏う剣がその手から離れた。慌てて駆け寄った三人。サガがその怪しい気配を放つ剣に手をかけようとしたとき、アテナが声を荒げた。
「触ってはなりません!!」
 びくりと手を引っ込めたサガは怪訝な面持ちでアテナを見た。今にも倒れそうなほど顔色を失くしたアテナだったが、なんとか気丈さを保とうと必死に振舞っていた。
「それを人が触れてはなりません。ああ、カノン!なんという……ムウ、カノンの手当てを早く!」
「わかりました」
 そう返事をしたのち、カノンを抱えて立ち去ろうとしたムウの足が止まった。
「貴方は―――どうやって」
「ムウ?」
 闇を前に立ち竦んでいる、というようなムウにサガとアテナが視線を向けた。
「―――さぁ?どうやって?私のほうこそ伺いたいものですよ……ムウさん」
 闇を撫でるように、にやりと口端を吊り上げたのは冥界で対峙したミーノスであった。ぐっと首を伸ばし、アテナへと不躾な視線を手向ける。
「でも、まぁ……タイミングは良かったようですね。計ったようなタイミング、というのが少々気に障るものではあるけれども―――アテナよ、その剣を我が主にお返し頂けますか?」
「アテナ……」
 サガとムウは同時にアテナを見つめる。
「アテナ、あなた方には不要の長物。いや、それは寧ろ厄介なものでしかないはず。何をおためらいになられる?」
 念を押すように低い声でミーノスが言い放つ。大胆かつ不敵ともいえるほどにアテナとの距離を縮めて行きながら。
「確かに、貴方の言うとおりでしょう」
 キリと強い眼差しを冥闘士に向けながら、毅然と受け答えたアテナは闇を纏う剣に手を伸ばした。一瞬苦痛に顔を歪めながらも、しっかりとその剣を握り締める。そして声を潜めてサガを呼んだ。
「―――サガ」
 小さくアテナが呼びかけたのに「はい」とサガもまた、同じく声を潜めて返した。
「あの冥闘士を踏みとどまらせてください。ですが、傷つけてはなりません。難しいでしょうが、貴方なら可能でしょう……私はシャカの元へ向かいます」
「承知いたしました」
 すっと立ち上がったアテナは「後は頼みます」とサガに向けて微笑んだ。
「―――!待ちなさいっ!?」
 消えいくアテナに向けて小宇宙を放とうとしたミーノスの前にサガが立ちはだかる。
「君の相手は私が勤めよう……ムウ!カノンを頼んだぞ」
 こくりと頷いたムウがカノンを連れていくのを目で追いながら、堂々たる冥闘士の前に笑みを零す。
「ほう?君は……あの時の者ではないようですね?聖衣を纏わずして冥闘士に戦いを挑むつもりか?―――なんと愚かな」
 ねっとりと纏わりつくような闇の笑みをミーノスが零す。
「傷つけるなとアテナがご所望なのでな……」
「フッ。後悔しても知りませんよ?」
 ざわっ……と撫で付ける闇の手。
 その冷たくも熱い闇の手に懐かしささえ憶えながら、サガは不敵な笑みを零した。
「―――と、言いたい所ですが」
「?」
「どうせ、足止めされた上にくたびれもうけ……ならば、お茶でも頂いたほうが得策ですね。いや、別にお茶でなくても構いません。コーヒーでも酒でもいいですよ」
「え……?」
 思わずサガは耳を疑った。
 肩透かしでも食らわして、不意打ちでも狙うつもりだろうかと警戒したのだが。
 その言葉を裏付けるように拍子抜けするほど攻撃的小宇宙をミーノスは消し去った。面食うサガを他所に「ああ、そうそう。もう一人こちらに向かって来る者がいますので、二人分、ご用意くださいね?」と微笑みかけてきたのだった。
 どうやら、目の前にいる冥闘士は非常に厄介な思考回路を持った相手で、この場合、どう対処したものかとサガの胃はキリリと痛んだ。