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比翼連理 〜 緋天滄溟 〜

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 ヒュプノスと傍らに立つタナトス、パンドラや三巨頭たちをアーレスは睨めつけながら、フッと口端を吊り上げた。不穏な気配が周囲に満ちる。
「―――ほう。わざわざ、そのために借りたか。用意周到だな。まさしく、その剣がなければおまえの言葉など取るに足りぬこと。即刻、叩き返しておるわ」
 沈黙するヒュプノスに代り、探るような眼差しを向けながらタナトスが口をきいた。
「腑抜けたハーデスの下より、我が膝元のほうが幾許か心地よいと思うがな。どうだ、タナトス?」
 そう言いながら、差し伸べられた軍神の手のひらを、侮蔑を孕んだ瞳でタナトスは睨む。
「ハッ!実に下らないことを。その真っ黒に染まった腹を今すぐこの場所で掻っ捌いてやろうか?」
「それも面白そうだ。やってみるか?」
 膨らみを増していく緊張感に、シンッと静まり返ったその時、パンドラが三巨頭を押し退けて両者の間に割って入った。
「タナトスさまも、ヒュプノスさまもどうか、短慮な行動はお控え下さいませ。ハーデスさまの御印をお持ちになられたこの方は真実、ハーデスさまのお使者でもあらせられます。そして、今は妾が冥界を預かる身であれば―――どうぞ、こちらへ。妾が案内を務めます」
「パンドラ!過ぎた口を聞くな!」
 タナトスの恫喝にも怯む事無く、パンドラはキュッと固く口を結び、細い身体でその圧力に耐えた。
「パンドラ様にお手出しなさるのなら、不肖ながら……我らはあなた方に、この拳を向けなければなりません」
 スイッと前に出たラダマンティス。それに続くようにアイアコスもミーノスもまた、双子神と軍神から遮るようにパンドラを守った。
「ククッ面白い。この者たちはあくまでもハーデスを頂とする、ということか。おまえたち双子の言葉など、この者たちにとっては取るに足りぬことらしい」
 嘲弄を交えながら、対立する冥界の住人たちを愉快そうにアーレスは眺める。
「ふざけた真似を―――」
 タナトスの怒りを含んだ瞳はパンドラたちを通り越して、アーレスへと差し向けられていた。そのまま、怒りを爆発させるかと思ったタナトスだったが、小さく舌打ちをすると、どこへともなく姿を消した。
「タナトス?」
 残ったヒュプノスは驚いたように目を丸くしたが、「フン、なるほど」とひとり得心すると同じようにその場から姿を消した。
 パンドラはホッとしたように息を吐くと少年―――アーレスへと向き直った。
「では、女主人よ、案内せよ。我とて火種を落とすつもりも、長居するつもりもないからな。用事が済めばとっとと消えてやろう。それが望みであろう?」
「まさしく、そのお言葉以外、何も望むべくもなく......こちらへ。おまえたちはしばし、ここにて待っておれ」
 不安と不満の入り交ざった複雑な表情を浮かべるラダマンティスに諭すように、もう一度パンドラは繰り返すと、静々と奥へと続く回廊へと軍神を誘った。