Who is fool?
ソファでだらだらと酒を飲んでいたら、アントーニョがとんでもないことを言い出した。
「ローデがくれるって言うんよ」
「…俺とあいつがイタちゃん達取り合ってたの知ってるよな?」
「だからこうやって先に断ってるんやんか」
いやいや、そういう問題じゃないだろ。って言うかお前は元旦那からのプレゼントを平気で貰うような奴なのか?
…うん、そういう奴だよね。知ってる。
知ってるけどさ。
「あいつがうちに来よったら、トマトぎょうさん食わしたるんや。」
「今はまだちっちゃいけど、あっこは土地もえぇし宗教もうちと一緒やし、きっと将来えぇ処になると思うんよ」
「もちろん甘やかしはせぇへんよ?俺がみっちる仕込んだるねん」
「俺もついに子分が出来るんや。親分になるんやで」
俺が持ってきたワインで気分は上々、アントーニョは目をキラキラさせながらまくしたてる。頭が痛くなってきた俺のことなどお構いなしだ。
ちなみにそれ、こないだまで俺が考えてたこととまるっきり一緒。こんなとこで意見が合ったってどうしようもないし、結局ローデに負けて実現しなかったの、お前だって近くでみてたじゃない。
そんな笑顔で傷抉られると、流石の俺も嫌味の一つくらい言いたくなる。鈍感なこいつのことだから通じるかは置いておくとして、多少いじめたって神様も許してくれるだろう。
そう思って口を開いた俺に、ヤツはとどめの一言を言い放った。
「せやから、今度からうちでするのナシな」
ああ、その笑顔が憎い!!
「…うちでやると周りがうるさいつって毎回俺を呼び寄せてるのは誰だったかな」
「せやかて、こんなん教育に悪いやろ」
「今まで俺が呼んだって来なかったじゃないの」
「あの山超えるのきついねん」
「俺は今まさにそれを超えてここにいるんだけど!!」
「まぁまぁ、次からは俺が行くから…な」
もうヤらん言うとる訳やないし。
そう言ってアントーニョの身体が俺の方にかしいでくる。翡翠色の目が潤んでいるのを見てこめかみが痛んだ。本当にどうしようもない奴だ。やりたい放題好き放題、こんなの続けたらいつかお兄さんにも嫌われちゃうよ?
…いや、多分それはないけど。
ないって解ってるからこんななんだろうなぁ。それはそれで癪だなぁ。嬉しいような、切ないような。
「じゃあさ、ロヴィちゃん要らなくなったらくれる?」
「いやや。要らなくなんてならんし」
「引き取る前から親バカだな」
「だからおとんやなくて親分やってー」
何だよ、その親分って。
きゃっきゃと笑いながら目だけは熱を訴えてくるアントーニョに乗せられてその身体を指でなぞると、笑った声のまま言葉だけ甘く変わっていく。首筋から鎖骨、耳へ戻って今度は背中。綺麗に出た肩甲骨を辿って脇腹へ。くすぐったいと身体を捻った隙をついて体勢を入れ替えた。
ぽふん、ソファに身体を横たえたアントーニョの腕が首に絡んで引き寄せられる。キスを迫られるのかと思ったらそうではなく、代わりに肩口にくせ毛を感じる。熱い吐息が耳にかかった。
「 」
小さく囁かれた言葉に思わずつきそうになった溜め息を熱い首筋に押し付けて誤魔化した。緩慢だった指の動きを速くして快楽を促せば途端に肌が色めいてしっとり汗ばんでくる。
「ちょ…はやい…っ」
「…………」
「あかんて…ばか、…ぁ」
馬鹿はどっちだか。
だって、ごめんな、なんて。
今の俺に言う言葉じゃないでしょ。
言わなくても言いことばかり言って、肝心なところは誤魔化そうとする。でもそれすら上手く出来ないんだ。馬鹿すぎて。
謝るくらいなら最初から断るか、もっとマシな開き直り方すればいいのに。飄々としてたかと思えば誘ってきて、懐柔しようとして。それでどうにかなると本気で思ってるんだろうか。
俺じゃなかったら絶対愛想尽かされてるって。
…まぁ、全部今更なんだけど。
聞こえなかったふりはせめてもの優しさだから、その分楽しませてくれよ。
作品名:Who is fool? 作家名:やつしろ