あたたかなゆめをみませんか
手が冷たい人は心が温かいらしい。
どこだかの小説、どこだかの演劇、使い古された言葉を口にしたのは若葉色の髪の毛をした少女だった。
両方の掌でユーリの右手を触れたそのまま、ファラは微笑んだ。
「だから何だって?」
「ユーリは心があったかい人なんだねって」
剣ダコを、1回、2回となぞる人差し指を目で追って、ユーリはひとつ溜息を吐いた。
「そんな感覚で人の良し悪しがわかりゃ苦労しねーな」
絡みついた糸を無理矢理引き千切る、よりはすり抜けて、離れた掌と掌。
そのままぽん、と頭の上に置いたそれを、ユーリはファラの髪の毛を掻き混ぜるのに使った。
首を緩く傾げて、笑う姿がとても温かいと思った。
「リッドと同じ事言うんだね、ユーリって」
りっど、と紡がれた言葉を脳味噌で処理して理解に至るまでほんの数秒。
面識の無いユーリが理解したところではっきりしているのは名前と、ぼんやりと靄がかかったそれを取り払いたい衝動と、「りっど」の話をする時のファラの表情から容易に読み取れる想いの大きさ。
辟易する。
無性に、歪めてしまいたくなる。
「そのリッドって奴の手は冷たいのか?」
「ううん、あったかい」
ユーリと同じに剣ダコがあってね、おっきいてのひらで、
「とってもあったかいの」
「んじゃあ、そいつは心が冷たい奴なんだな」
「ちがうよ!」
「って、アンタが言ったんだろ?」
開けた口から発する言葉を失くして、ファラは唇を尖らせるように噤んだ。
口角を緩めて、また、若葉色を散らかした。
「ユーリって頭撫でるの好き?」
「好きっていうか――癖っつうか。嗚呼、嫌だったか?髪形崩れちゃうーとか」
「あはは、そんなこと気にしてたら格闘技なんてやってられないよ」
「そりゃそうだ」
木の造る葉の影が、風に揺らされ地面と動く。
先程よりも幾分かズレた影を目で追い、「そろそろ行くか」とユーリは立ち上がった。
「ほら」
差し伸べた掌に触れたファラが「あ」と声を出す。
「何だ」
「ユーリの手、ちょっとあったかくなってる」
「そりゃあ、」
さっきアンタがその温かい手でずっと、
唐突に霧が晴れた、答えは酷く単純明快だった。
「――あったかくもなるわけだ」
「え?」
「いや、そのリッドって奴は心のあったけー奴なんだろってな」
「どしたの、突然」
「別に。――さぁって、と。次は何処に行きますか、イケるイケるのお嬢さん?」
「なあに、それ」
塵が積って山となり、風に攫われ届くか消えるか、二者択一。
故に、消えてゆくものに手を伸ばす様は、無様とでも名づけるのが妥当なのか。
そんな姿も、きっと、ばらばらと指から零れ落ちて、消えてゆくと、知りつつも。
あたたかなゆめをみませんか
作品名:あたたかなゆめをみませんか 作家名:ゆち@更新稀