ブルー・ハニー・ムーン
さんざん大騒ぎした夜更けに、パーティーはお開きになった。
二人は豊洲のショッピングセンターに残って、ベランダからみんなを見送った後、顔を見合わせた。
「疲れた?咲」
「ううん、大丈夫だよ。後片付けは・・・明日にしようね。みっちょんたちも明日かたづけ、手伝ってくれるっていってたから」
二人の結婚祝いパーティーの会場になったショッピングセンターの一階は、まさに「祭りの後」で。食べ物、飲み物、紙ふぶき、花、風船、もう、いろいろなものが散らばっていた。でも、それは、みんなが二人の門出を思いっきりいわってくれた証拠でもあるのだ。
「ふふふ・・・」
「どうしたの?咲」
「板津くんのこと思い出しちゃったの。もう、わんわん泣くんだもん。本当に、花嫁のパパみたいで。」
「そうだな、あいつ、咲を娘とでも思ってんじゃねーの。あるいは、俺の父?」
「ふふ。でも、うれしいね。あんなに喜んでくれて。板津くんって、やさしいね」
「ああ、そうだな。板津も、みんなも。すっげー喜んでくれたな。オネエなんて、泣きすぎて、化粧ぜんぶ落ちてすごい顔になってたよなー」
「それだけ、祝ってくれたってことだよね」
「うん・・・俺たちのこと、ホントに祝ってくれてたよな」
「うん。感謝だね。みんなに。ありがとだね」
「ああ。」
見上げれば、満月である。こうこうと月光にてらされて、すべてのものが青く輝いてみえる。
「咲。ほんとによかったの?新婚旅行いかなくて?」
「うん。大丈夫だよ。旅行なら二人でいつでもいけるし。今日は、ここで・・・二人が初めて一緒に夜を過ごした場所で、過ごしたいから・・・」
「咲・・・」
「あのときは、一緒にっていっても、別々だったけどね。私だけ、映画みてて・・・」
滝沢は、実はあの夜、映写室でノックダウンされてたことを伝えようかと思ったが、いまさらそんな話を咲に伝える必要もないと思いとどまった。心配させるだけだし、すべては、もう過去のことだ。滝沢は明るく咲に言った。
「じゃあさ!今夜こそ、一緒に映画みる?二人で?」
「え?映画?」
「ははは!ジョーダン!」
滝沢は咲をその腕に抱きいれて言った。
「映画なんか、見てられないよ、こんなきれいな咲がいるのに。こんな近くにいるのに・・・」
滝沢は咲を抱いている腕に力をこめた。
「あ・・・」
「咲、俺のこと、待っていてくれて、ありがと。俺を信じてくれて・・・ずっと信じてくれてありがと」
「滝沢くん・・・」
「もし、あの時、咲が俺のこと探してくれなかったら・・・咲が俺のこと、信じ続けてくれなかったら・・・俺は今こうしてここにいることもなくて・・・咲をこうして抱いていることもなくて・・・エデンのヤツラと一緒にいることもなくて・・・どこかで、一人ぼっちで記憶なくして、何をなくしたかもわからず、さまよっていたかもしれない。咲のいない未来で俺はさまよってたかもしれないんだ」
「滝沢くん・・・そんなこと、いわないで・・・・今は、一緒だよ?それに、滝沢くんのこと信じているのは私だけじゃない。みんな、板津くんも、平澤くんも、みっちょんも、オネエも。みんな、滝沢くんのこと、信じているよ」
「咲・・・。うん、でもさ、やっぱり・・・」
「え?」
「咲が信じてくれることが一番、だからさ」
「滝沢くん・・・」
「それに・・・他のヤツラとこういうことできないし、さ。したくもないけど・・・」
そう言って、滝沢は咲にちゅっ!とキスをした。
「咲、俺のこと信じてくれてありがと。俺なんかを選んでくれて・・・ありがと」
「滝沢くんたら!滝沢くん、だからでしょ?私が好きになったのは、信じているのは、滝沢くん、だから、だよ?」
「うん・・・うれしい。咲、俺、すっげー、うれしいよ」
「わたしだって・・・こうして滝沢くんと一緒にいられて、うれしい」
二人は唇を重ねた。
咲は滝沢の首に腕をまわして。滝沢はその腕を咲の背にまわして。
二人の体はぴったりとくっついて。二人の心のように、ぴったりと寄り添う。
滝沢は咲の耳もとに口を寄せた。
「咲・・・ベッドいこうか・・・」
「うん・・・」
滝沢は咲を抱き上げて言った。
「ぬがせるのがもったいないよ、このドレス。すっげー咲きれいだから」
「やだ・・・滝沢くんったら」
「でも、何にも着てない咲もすっげーきれいだからネ」
「・・・っ!!」
滝沢の首に腕をまわしたまま、ぼっと咲は赤面してしまった。
そんな咲が、ものすごくかわいくて、滝沢は思わずにんまりしてしまう。
ベッドに咲を横たえて、滝沢は彼女につたえる。
「咲、愛してる。俺がどんだけ咲を愛してるか、今日は思いっきり伝えたいんだ。咲を嫁さんにもらって、俺がどんだけうれしいか、咲に知ってもらいたいんだ。だから・・・今日は、ちょっとはげしいかもよ?俺」
「あ・・・」
ますます、赤面していく咲。
咲への愛おしさに、胸がリアルに痛い気がする。
咲を悦ばせたい。
咲に俺を感じてもらいたい。
咲をどんどん乱れさせたい。
咲に、知ってもらいたいんだ。
咲のこと、こんなに愛している、こんなに焦がれてる男がいるって。ここにいるって。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
滝沢の激しい愛撫に咲は涙を浮かべて、苦しそうに眉を寄せる。
「さ・・き・・・苦しい?大丈夫?」
「くるしく・・・ない・・・。ただ・・・あ・・・感じすぎて・・・もう・・・」
「咲・・・まだ、足りないよ・・・もっと、もっと・・・もっと俺を感じて・・・」
「あ・・・」
今夜は君を寝かさないから。
朝までずっと君を愛したいから。
ほんとに、ほんとに、君が好きだから。
すっげーうれしいから、俺。咲が俺の腕の中にいてくれて。
満月の青い光だけが、二人の夜を照らしていた。
作品名:ブルー・ハニー・ムーン 作家名:なつの