なくてわるいか。
仕事を終えてようやく部屋にたどり着く。
今日もいろいろな意味で疲れたな、とため息をつく。
それから背後に感じる人の気配にもう一度ため息をついた。
「……何の用だ」
「ええ~? いや、今日おやすみだったから佐藤くんの顔見てないやーと思って」
「俺は別に見たくない」
佐藤くんは冷たいなあ、とか何とか言いながらちゃっかり上がりこまれた。
疲れているので追い出す気力もない。
どうせ何を言っても無駄だ。
「てめー、せっかく来たんだから飯でも作れ」
「あ、夕飯まだなの?じゃあ」
じゃあと言いつつ相馬はこちらに近寄ってきた。
嫌な予感がすると思う間もなく、押し倒された。
いそいそと嬉しげに俺のシャツを脱がせにかかる。
「……何の真似だ」
「ご飯まだなんでしょ?じゃあ俺を食べて的な」
「……頭からバリバリ食うぞ」
ふざけんな、そうは言ったものの本格的にどうでもいい。
反抗する気力がないのだ。
本当にあのバイト先は消耗させられることばかりだ。
目の前のコイツも含めて。
「ああ、でもこれじゃあ俺が佐藤くんを食べることになるね!」
「……」
「佐藤くーん? おーい?」
反応の乏しい俺に相馬が手を振って見せた。
俺はじろりとそれを睨むと、溜息をつく。
するならさっさと終わらせろ。
それから飯作れ。
「佐藤くんはムードがないなあ」
「……うるせえな」
「それから胸もない」
あってたまるか。
俺が小さく呟くと相馬は笑った。
「俺さー、胸は大きいほうが好きだしその方がいいと思ってたんだけど」
「…………」
「佐藤くんの胸はなくても好きだよ」
っていうか、胸がなくても佐藤くん好きだ。
これってすごくない?
これってそれだけ佐藤くんのこと好きってことだよね!
「ねえ、佐藤くん?」
「……胸胸胸胸うるせえんだよ」
下からけり上げると相馬は涙目で「ひどいよ佐藤くん」と呟いた。
あってたまるかっていうかなくて悪いか。
俺的に一世一代の告白なのにー、と漏らした相馬の言葉は聞かなかったことにしておく。