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嘘よりも100万回の愛の言葉を

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「帝人君なんて嫌いだよ。」

正面から嫌いだと言ってみせて、傷ついたり、どうしてなんて理由を問いただしてくる姿を見たいちょっとした出来心から言った言葉だ。なのに帝人君はうんざりしたようにため息をついて俺を睨む。
「臨也さんって本当に面倒くさいですよね。」
さっきまで自分が浮かべていた笑みが一瞬で抜け落ちて引きつっているのが分かる。
「僕に会う度に悪態をついて、無視すれば怒るし、そこまで僕が気に入らないなら来なければ良いのに約束なんかしてないのに学校の校門の所で待ち伏せされたり、家に不法侵入してたり、本当うんざりなんですよね。」
言い募るまた腹が立ってきたのか帝人君はうんざりしたような顔から明らかな嫌悪を滲ました表情になっている。俺はといえば今まで見たことのない帝人君の激昂した様子を目にして背中に変な汗が滲み出していた。
「それに今だって自分から嫌いだなんて言っておいて、僕が明らかな嫌悪を向けると信じられないって感じの顔をしていることが腹が立つんですよ。むしろそれ、こっちのセリフだと思うんですよね。自分の今までの行為を振り返ってみてどこに僕があなたを好きになる根拠があるんですか?あるんだったら教えてほしいですね。」
いや、ひとつもない。帝人君が喜ぶようなことなんか一度もしたことないし、考えたこともない。ただどんな風にでも帝人君に構ってもらえれば俺は嬉しくて、悪態をつくのだって俺にとってはただの照れ隠しでしかなかったから。だから帝人君がこんなに怒っているなんて知らなかった。
「どうしたんですか?いつもみたいに僕の悪態ついてこないんですか?今まで悪態ついてきたのは君が俺よりも劣っているからでしょ、とか何とか言ってみたらどうですか?まぁ、今あなたに何を言われたところで苛々するだけで傷ついたりすることはないでしょうけど。臨也さんは僕が傷つくのが好きなんでしょう?」
好きか嫌いかと言われれば好きだった。帝人君が傷ついた顔をするたびに帝人君の心に傷を付けたのは自分なんだと思うと興奮した。だから何度も何度もそうやって帝人君を傷つけて、たった一時の感情の為にここまで帝人君を怒らせているとは思わなかった。

しばらく黙り込むと、再び帝人君が深いため息をついた。
「まぁ、いろいろ臨也さんに対して腹が立っていること言いましたけど、それよりももっと腹が立っていることがあるんですよ。」
まだあるのか、と耳を塞ぎたくなる衝動を抑える。
「僕が一番腹が立っていることはですね・・・」
帝人君は視線を逸らそうとした俺の顔を両手で押さえて視線を無理やり合わせた。
「こんなに面倒くさくて、うっとうしくて、嫌なところとか嫌いになる要素しか持ち合わせていない臨也さんを好きになってしまった自分、ですよ。」
言われたことが一瞬分からなくて目の前にある帝人君の瞳を凝視する。帝人君はそんな俺の視線に耐えられなかったのか手を離して俺を解放すると、耳まで赤くなりながら俺に背を向ける。
「僕、見た目ほど鈍感じゃないですからね。臨也さんが僕のことを好きであろうことにとっくの昔に気付いてましたよ。悪態つくのだって小学生みたいに好きな子はいじめたいとかそんな感じの理由だろうし、無視して怒るのは構ってくれないからって理由からだろうし、僕のこと嫌いだって言うのも嘘でしょう?臨也さんがつく嘘はなんとなく雰囲気で分かりますから。」
「帝人君・・・」
「だから、そんな僕を試すような言葉や態度じゃなくて、もっと簡単な言葉で言ってくれれば良かったんですよ。」
振り返った帝人君は照れくさそうに微笑んでいた。俺は耐え切れなくなってぎゅう、と帝人君を抱きしめる。
「す、好き、帝人君が・・・好き、です。」
「はい、僕も好きですよ。」
そう言って背中に回された帝人君の手が俺を宥めるように背中を撫でる温もりに泣きそうになった。
「僕は臨也さんのことをよく知ってますよ。臨也さんがどうしてそんな行動をとるのか、理由までちゃんと知ってます。だから、会う度に僕の気持ちを試すみたいに嫌な言葉を吐かなくたって、僕があなたを好きだって信じてくれればいいんですよ。」
帝人君を抱きしめたまま頷く俺に帝人君は苦笑した。
「さっきはごめんね。嫌いだって言って、許してね。」
「大丈夫ですよ。なんといっても今日はエイプリルフールですし、ましてやそんな誰にでも分かる嘘なんて嘘のうちに入りませんから。」
そう言ってクスクス笑う帝人君はとても可愛くて、思わず抱きしめている腕に力を込めた。
「臨也さんがそれでも気になるっていうならこれから100万回くらい好きだって言ってくれれば、たった1回の嫌いだって言葉なんて忘れちゃいますよ。」
「今までたくさん嘘ついてきたし、今だってついたばっかだけどこれだけは言えるよ。」
俺はそっと帝人君の耳元に口を寄せて囁いた。



「100万回なんて言わず、死ぬまでずっと好きだって言い続けるよ。」