つむいで、つなげて、
「え? なに突然」
夕食後の消灯までの自由時間。宿舎の部屋で風丸がふとそう切り出した。
「いや、今日サポーターの子どもに『大きくなったらサッカー選手になる!』って言われたんだよ。そしたらなんとなく自分の将来とかってどうなってんのかなって思ってさ」
風丸の言葉に、綱海はすこしだけ考えた。
「十年後かー……。ちょっと前のオレなら島で毎日波乗って魚獲れてたらいいなって思ってたな」
「いまは?」
「でっけぇ波をどんどん乗りこなして、でっけぇ魚獲りまくって、サッカーで世界中の強いやつらとたくさん戦いてぇな!」
「お前らしいな」
あまりに予想通りの回答に、風丸はちいさく笑った。
「お前はどうなの?」
綱海の質問に風丸はすぐには返事ができなかった。
「……正直、十年後とか言われてもピンとこないんだよな。未来の自分とか全然想像つかないし。でも、」
「でも?」
「十年後もその先も、ずーっとサッカーを続けられたらいいよな、とは思う」
ちいさな、けれども力強い風丸の言葉に、綱海は風丸の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「そうだな! オレも、ずーっとサッカー続けてぇや!」
乱された髪を直しながら風丸が笑うと、それを見た綱海も笑った。心地よいあたたかな空気が部屋いっぱいにあふれる。ひとりが笑えば、もうひとりも笑みを深くする。そんな時間だけがたっぷりと、たっぷりと流れた。
「……で、これってオレたちもずっと一緒にいられたらいいよなって流れじゃねぇの?」
「は?」
風丸の一音に部屋の空気が一変した。
「いや、『は?』ってお前さ……。十年後にオレらがどうなってるとか気にならねぇの?」
綱海の言葉を受けて、風丸は軽く目を閉じて、十年後の自分たちを思い描いてみる。そして、目を開いた。
「全然、わからん。想像つかない」
綱海は露骨に落胆して、とても、とても深いため息をついた。
「えー、なんだよそれー」
「だから、十年後とかピンとこないって言っただろ」
風丸の抗議に、綱海はまだ納得できないというように食い下がった。
「そりゃそうだけどさー……。でも、できたらずっと一緒にいたいとかは思ってくれたりしねぇの?」
「……いや、まぁ、そりゃできたらそうなればいいとは思うけど……」
「けど?」
「……なんて言うかさ、よくわからない未来のことより、確実ないまこの瞬間を大事にしたいなって俺は思うんだけど」
「……」
「……」
「……」
「……なんか、言えよ」
「……あの、風丸サン?」
「……なんですか?」
「いま、すごく、チューしたいんですけど……」
「……どうぞ」
ふたりしてみっともないくらいに耳まで顔を赤くして、未来につながる刹那のなかでぎこちないキスをした。
作品名:つむいで、つなげて、 作家名:マチ子