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手を伸ばして突き放す1 -骸

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沢田綱吉はインターフォンの画面ごしで「どこにも行くところがない」と言ってきた。そして僕は「勝手にすればいい」とマンションの自動ドアを開き、合い鍵を与えた。
 広いけれど最低限の家具しかない自分の部屋に、彼が転がり込んできてもせまいと感じることはなかったが、驚くほど彼はなにもできなかった。
 キッチンを荒らされるのも嫌だったので、料理を二人分用意してテーブルに並べると彼は「ごめん」と謝る。
 一組しか布団がないので、ベッドを半分渡すとやはり「ごめん」と謝った。
 最初は彼の口癖なのかとも思ったが、依り代であった娘の目線から見たときの彼の姿を思い出し、ちがうと気づいた。
 彼が自分の部屋を家出場所にしたのは単純な理由だ。『六道骸はマフィアを嫌っている』それだけだ。
 家出している場所が僕以外の守護者や家庭教師にばれていることも、逃げ回っても彼がボンゴレファミリーのボスとなることが覆ることがないことも彼自身がわかっている。
 彼はただ「沢田綱吉がマフィアのボスになることを嫌悪している」人間のそばに居て、近づくイタリア行きの日を忘れたいだけだ。信頼しているからでも、居心地が良い場所を求めているわけでもない。
 彼が目をそらして「ごめん」と言うたびに、ひどい男だと静かに思う。

「僕、無料奉仕って嫌いなんですよね」
 ベッドの上で壁を背に座りながら、ぼんやりとニュースを見ていた沢田綱吉に近寄り、視界をさえぎった。
 突然の請求に茶色い目がおおきく見開く。
「でも、俺、お金は……」
「そんなこと知ってます。やらせてください」
「え、」
「抱かせてくださいと言っているんです」
 言葉が出ないようだ。
 意味はわかっていても、自分が同性からの性の対象となるなんて想像もしたことがなかったのだろう。
 彼に好きな女性がいることは知っていたし、彼も僕がそのことを知っていることをわかっている。
 早く嫌悪をむき出しにしてここから出て行ってしまえばいい。自分からは彼を追い出せないことはもうわかっていた。出て行けと強く願うのに、それ以上に出て行ってほしくない。
 それなのに、彼は「いいよ。わかった」と言った。
 今度は自分が絶句する番だった。不安に目線を揺らす彼を呆然としながら見つめてしまう。
 やがてばつが悪そうに彼がぼそりとつぶやく。
「でも、吐くかも」
 目をそらして「いや、きっと吐く。たぶん、ぜったい」とぼそぼそ口にする。
 了承すると思っていたなかったので驚いてしまったが、これは僕のほうから拒否させようということだろうか。
 僕がここで断れば彼は出て行こうとするかもしれない。また「ごめん」と言いながら。 
 結果はおなじだ。でも、彼は知らないのだ。
 僕が彼を追い出せるはずがない。きっとなにかを理由につけて彼を止めてしまう。
「いいですよ。洗えばいいんですから」
 こうなったらひどくしてやろうと決めた。思い切り痛めつけてしまおう。泣こうが吐こうがかまうものか。
 執着は消えないだろうけれど、彼から怯えて離れていくかもしれない。自分は傷つくかもしれないが彼も傷つく。彼からもひどい男だと思われるぐらいの距離がちょうどいい。
 少し乱暴に肩をつかんでベッドに押しつけると彼は「そう」と目を閉じて力を抜いた。
「吐いたら、ごめん」
 その「ごめん」は本気だと気がついた。
 ああ、そうだ。彼には超直感があったのだ。
 彼は僕の気持ちをすべて知った上で何度も謝り、僕の要求に自分ができるだけのことをせいいっぱい応えようとしている。
 けれど応えきれないことも自覚している。そして、また謝る。
 彼はずっと僕に罪悪感を抱いて、利用している。
 ほんとうにひどい男だ。