片恋連鎖
今日はとても晴れ晴れしていて
とても気持ちのいい風が吹いていた。
喜びも悲しみも全てこの時までは笑っていられたのに・・・あの人の傍で。
そう、笑って・・・・・・
「静雄ー、でかけっぞーー」
「は、はい!すんません。今行きます!」
くすんだ金色の髪が青みがかったサングラスにかかり少し邪魔そうに前髪を手で後ろにかき上げる。
「トムさん、すんません」
トムと呼ばれたそのドレットヘアーの男は申し訳なさそうに駆け寄ってくる静雄にニッと片方の口だけ引き上げるような少し困ったような笑いを浮かべた。
「ん?気にすんな」
吸いかけのタバコを近くに設置された灰皿に擦りつけ左手をひらひらさせて歩き始める。
「いくぞ」
少し特徴のある訛りの響くその声に静雄は嬉しそうに「はい!」と返事を返す。
今日も何も変わらない
その背中をいつまでも見ていたいと思った。
この人と一緒なら・・・
自分は強くなれると、そう思っていたから・・・
―――― アイツが現れなければ。
何も・・・変わらなかったのに・・・・
別れは・・・突然やってきた。
ねぇ・・・なんでそんな顔するのさ
楽しそうに笑って、嬉しそうに笑って・・・あんな顔・・・見たことないのに。
「へー・・・あーいう顔、出来るんだ」
見慣れない表情
聞きなれない声
何だろう
チクリと胸がチクリと痛む。
いつも、いつも、いつも、いつも・・・・・・・
目の端に映ってくるアイツが目障りだった。
「シズちゃんは・・・さあ、ひとりがお似合いなんだよ、わかる?」
誰もいない虚空に臨也は吐き出す
反吐が出る
気持ち悪い
あんなの本当のシズちゃんじゃない
嫌悪
喪失
虚無
この感情を何と言っただろうか
初めから気に食わなかった。
自分は彼が自分に気付く前から知っていた。
目をつけていたのに・・・
横から掻っ攫っていったアイツの何もかもが気に入らない
中学の先輩?
仕事場の上司?
俺がせっかく準備した舞台にズカズカ入り込んできて。
全てが気に入らない
シズちゃんから何もかも奪って初めて俺だけのシズちゃんになるのに・・・。
あの目は自分のものなのに・・・
あれは俺の遊び道具なのに・・・やっと見つけた、俺だけの。
気に入らない
気に入らない
気に入らない!!!!
消してしまおうか
簡単
とても、簡単な作業だ・・・
そうすれば、いつもの顔に戻るよね
俺だけを見て
俺だけが知ってる
俺だけの・・・
だから、今のシズちゃんは壊してしまおう
「ふふ、ふふふふ・・・・」
こみ上げてくる笑いが抑えきれない
「違うよね・・・違うよぉ・・・・ねぇ、シズちゃん・・・」
何かが音もなく壊れる音がした。
その目は赤くただ一点だけを見つめていた。
「・・・・・・しぃぃぃーず、ちゃん・・・見ぃつけた」
あの瞳は俺だけのものなんだから・・・
「あんなシズちゃんは認めない。…認めない」
【片恋連鎖】
作品名:片恋連鎖 作家名:peso@ついった廃人