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桜は咲き誇り、そして今、その身を散らそうとしている。

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桜は咲き誇り、そして今、その身を散らそうとしている。
 

「じーちゃ! お花ー!」
 
 ついこの間生まれたと思っていた可愛い孫は、もう元気に外を走り回れるまでに成長した。それでもまだ舌足らずな物言いに、ジョットの頬がゆるむ。
 
 本当は、まだ散る前の桜を見せてやろうと思っていた。だが、この地に長年住むジョットの親友は「桜は散るときが美しい」と言ってた。綱吉という力強い名を両親から授かった可愛い孫には、一番美しいときの桜を見せてやりたい。だからあえて、桜の花びらが空を舞う時期を選んで孫と共に外に出た。
 
 遠くに桜の木を見つけて走り出す子供はそのままに、ジョットはあたりを見回した。
 
 すこし町から外れたところ、桜の木が一本だけ植わっている小高い丘。親友から教えてもらった、いわゆる『穴場』。悪くない、と思った。

「じーちゃ、じーちゃぁー!!」
 
 花を散らす桜の根元から聞こえる、ジョットを呼ぶ幼い声。

「今、行く」
 
 短く答え、ジョットは景色から目を離し歩を進める。ゆっくりと歩いてきたジョットに、綱吉は安堵の表情を浮かべた。どこかへ行ってしまったのではと思ったからだ。
 
 子供は桜の幹にしがみつくような形で立っていた。ジョットはその小さな体を抱き上げ、髪に付いた花びらを取ってやる。幼子はそれを気に留めることもなく、手を伸ばし、手近な細い枝を握った。

「じーちゃ、お花ほしい」
「…よしなさい、綱吉」

 まだ未発達なその手を、枝からそっと外させる。

「枝を折っては、桜が怪我をしてしまうぞ」
「おケガ」
「そうだ。綱吉も、痛いのは嫌だろう?」
「やー!」

 ジョットが優しくかみ砕いて伝えてやると、子供は素直に桜の枝を諦めた。頭をふわり
と撫でそれを褒めてやると、大きな目の目尻が下がり、唇は弧を描いた。

 その時、一陣の風が吹きつけた。ジョットはとっさに風から子供を庇う。しかし、庇われた当の本人は感嘆の声を上げた。

「じーちゃ! お空! お花!」

 その単語だけでは理解できなかったジョットは、風がやんでから幼子が指さす空を見上げた。

 先ほどの鋭い風によって巻き上げられた花びらが、大空いっぱいに散っていて、まるで、空から花びらが降ってきているようだった。

「じーちゃ、おろしてー」

 目の前の光景に目を奪われたまま、ジョットは腕の中で身を捩る子供を下ろす。地に足が着いたとたん駆けだした子供は舞い落ちる花びらの中に身を躍らせ、小さな手を伸ばしその花びらを捕まえようと躍起になる。

 そんな孫には目もくれず、ジョットはただ呆然と桃色と空色が混ざった空間を見つめていた。そして、ややあってやっとはしゃぐ幼子に目を移し、それから桜の木を振り返った。

 ふと、ふと重ねてしまった。散りゆく桜の木と、その日を待つ己とを。

 たった一人で、物好きが通りかからない限り誰にも知られずに散りゆくのか。それとも、街路樹のように人の目を喜ばせながら散りゆくのか。どちらにせよ、散り際に落とす物はきっと誰にも拾ってもらえない。風に舞う花びらも、地に落ちれば先を目指して歩く人々に踏まれ、ゴミになるのだから。

「じーちゃー、とれたぁー」

 右こぶしを振り回しながら、幼子が駆け戻ってくる。ジョットが膝を曲げ目線を合わせてやると、子供は宝物を見せるように、ゆっくりとこぶしを開く。

 そこにあったのは、二枚の桜の花びら。綱吉は祖父の顔を見上げた。きっと褒めてくれると思った。でも、そこにあったのは。

「…じーちゃん、おなかいたいの」

 泣きそうなジョットの表情に慌てる幼子。ジョットはかぶりを振った。

「…これも、とっちゃダメなの…?」
「違うよ、綱吉」

 花びらを捨てようとする孫をジョットは押しとどめ、抱き上げる。

「綱吉」
「?」
「桜、きれいだな」

 うん! と力強く綱吉は頷いた。

「綱吉」
「う?」
「俺が散っても、拾ってくれるか」

 今日のように、俺の『遺志』を。

 答えは期待していなかった。この子はまだ幼いから、きっと真意は掴めないだろう。

 それでも。

「ひろう!」

 この一言で、俺は救われる。

「ありがとう。お前は、優しい子だ」

 腕の中の子に、そっと頬を寄せた。

「帰ろう」
「うん!」

 尚も花を散らし続ける桜に背を向け、帰路につく。



桜は咲き誇り、そして今、その身を散らそうとしている。
しかしその姿は優雅で儚く、美しい。
たとえ側に誰一人いなくとも、その散らした花びらは風に乗り、誰かの手のひらへ落ちるだろう。