サムライの使う愛本
「いらっしゃいませ、番号札をお取りになってお待ちくださいませ」
「うむ」
携帯ショップの店員は、入って来た着物姿の男に仰天しつつ、持ち前のポーカーフェイスで
応対した。他の客達も唖然として男を見ている。男は意に介した様子も無く、
杖らしき棒を傍らにおいて椅子にあぐらをかいた。
「番号札、18番でお待ちのお客様」
「・・・うむ」
「今日はどのような御用事でご来店ですか?」
「携帯電話が壊れてしまってな。新しいのを買いに来た」
そう言って男が懐から取り出したのは、傷だらけで穴の空いた黒い携帯電話だった。
どうやったらこんな惨状を呈するのだろうか、店員が開いてデータをチェック
しようとしたが、当然のように中のデータは消滅していた。メモリーチップも
無くなっている。
「・・・そうですか。それで、どのようなモノをお求めですか?」
「なにかおススメは?拙者、機械に関してはとんと不得手なのだ」
「えーっと・・・今の流行はタッチで操作する・・・iphone、ですね。
ご覧になります?」
「ふむ、ではその愛本とやらを拝見しよう」
店員が持って来たiphoneを彼は説明を受けながら試しはじめた。
「ボタンが一つしか無いが、触るだけで動くのか」
「はい。画面上のアイコンをタッチしてくだされば、アプリの起動ができます」
「・・・あいこんとは?」
「この四角い小さな絵のことです。この絵を触れば電話ができます」
「ふむ、他にも色々できるのだな」
「ええ、今入っている機能はこれだけですが、パソコンでアプリを
ダウンロードしていただければ、様々な機能をご使用頂けます」
「そうか。拙者はパソコンを持っておらぬので知り合いに頼むとしよう。
それではこれを頂く」
「あ、はい。それではこちらの書類に記入をお願いします」
「携帯変えたのか、五エ門」
「うむ。ところでルパン、あぷりをだうんろうどしたいので手伝ってほしいのだが」
「とっつあんから逃げ切ってからな」