脱走計画
なんでかって? そりゃあ、このつまんねぇ世界会議に出るためさ。
毎回毎回、アメリカが突拍子もない案をだして、イギリスが食いついて、フランスがおちょくって……ドイツの怒号で終わるか、スイスがキレて実弾ぶっぱなして終わりだ。
ちなみに、今回の議題は……
『CO2増加に伴なった、温暖化への対策だね。』
んなもん、アメリカ・中国と欧州の奴らでやってりゃいいってのに。元はといえば、あいつらが無駄に排気ガスだのなんだのと、出しやがるからじゃねぇか。
なんで俺らまで……
「って、エジプトのじいさん!」
「なんだい?」
「人の心の声を勝手に読まねぇでくれぃ。」
「君が勝手に、声に出していたんだろう?」
「……ほっとけ」
ま。俺んちは、出来る限りの対策してるしな。壇上の茶番劇も、見飽きちまった。
――こっそり抜け出して、チャイでも飲んでのんびりするか。
幸い、ここはロンドンだ。眉毛野郎の飯は壊滅的だが、茶はうめぇ。
マーケットに行けば、ロクムも手に入る。
そうと決まれば……
「おい、抜けるぞギリシャ。」
「ん……死ねトルコ……抜けるって……バックレるのか?」
「まあ、平たく言ったらそうだな。お前ぇと一緒ってぇのは癪だがよ。」
「……お前と一緒……ってのは嫌だ……けど……中庭で昼寝したい……」
「よし!そうと決まれば行くぞ。来るかい?エジプトのじいさん?」
「そうだね、私もそろそろ静かな所が恋しくなってきたところだからね。」
ちょうど俺らの席は、議場の一番後ろだ。5メートルも進めばドアがある。
久しぶりに、ほふく前進と行くか。
「トルコ……さっさと進め……それか死ね……」
「うるせぇ!黙ってろぃ!スーツのせいで、動きにくいんでぃ!」
「死ね……トルコ……早くドア……開けろ……」
「ほらほら、あんまり騒ぐと見つかっちゃうよ?」
その時――チャキッ
「貴様ら、どこに行くつもりであるか。」
「げっ!なんでここにいるんでぃ!」
「おや、スイスじゃないか。」
「質問に答えるのである。どこに行くつもりなのだ。」
そう言って、トルコたちに向けられた、ライフルのセーフティは既に外されている。
「いや、ちょっと……」
「ちょっと―― なんであるか。」
「会議……つまらない……俺たち……バックレる……」
「ちょっ!――ギリシャ、てめぇ!!!」
「会議をサボろうとするとは……良い度胸なのである!!!!」
――ダショーン!!ダショーン!!!
その後の会議で、
いつもより真剣に、会議に参加しているトルコ・ギリシャ・エジプトの三人が目撃された。
「ところで、エジプトのじいさんよぅ。」
「なんだい?」
「スイスの野郎、じいさんにだけは発砲しなかったのはなんでなんでぃ?」
「さあね。年長者だからじゃないかい?」
「……俺もギリシャも、スイスよりは年上じゃねぇかぃ……」