+Thought+
紋章を背負ったことに後悔しません
あなたに逢えたことを後悔しません
あなたを好きになったことに…後悔しません
「ねえ、聞いてくれる?」
僕の言葉に、隣で半分夢の世界にいるフリックが、気の抜けた返事をする。
返答は望んで無い。
ただ聞いて欲しいだけ。
「一人で死なないでね」
前々から思ってたことを口にする。
突然の言葉にビックリしたように、フリックが僕を見た。
少し、笑いがこみ上げてきた。
―マヌケな顔
でも次に感じるのは、どうしようもない愛しさ。
幸せな、穏やかな気持ちが胸に込み上げてくる。
「どうしたんだ?突然」
難しそうな顔をして、僕の正面に座り直すフリックに、出来る限り微笑む。
フリックの手に、僕の手を重ねあわす。
「もしもだよ」
「もしも、でもだ。お前を残して死なない」
顔はいたって真剣。
きっとそう出ると思った。
でも、そんなこと無理だよ。
そう思いながら、もう一度。笑ってみせる。
フリックは僕のそんな気持ちを察したのか、表情を歪める。
「フリックって変なところが鋭いよね」
「茶化すな。どうしたんだよ」
僕って、フリックを不安にさせてばかりだね。
苦笑いになってしまう。
「死を恐れないで、フリック」
「! 別に恐れてなんか…」
フリックの言葉を、顔を横に振ることでさえぎる。
フリックの顔に、困惑の色が見える。
「じゃぁ、出来もしない約束はしないで」
これ以上に無いほど、フリックの目が見開かれる。
僕が気付かないとでも思ってたの?
フリックは、置いてかれる者の気持ちを知っている。
その深い悲しみを。
僕にその悲しみを与えたくない。
だから……死を恐れてる。
「違う?」
ちょっと意地悪な表情を浮かべて、首を傾げてみる。
ホラ。言い返せない。
「僕は大丈夫だよ」
「そんなこと…っ!本当に言い切れるのか?!
俺は知ってる。お前が絶望に立たされた時を!」
一番近くにいたから…
いつでも傍にいたから…
「いつのことを話してるの?」
ハッとして、フリックが僕を見る。
「いつまでも同じ僕じゃない。フリックが成長したように、僕も成長してる」
中身はね。と少しおちゃらけた調子で言ったが、逆効果だった。
ますますフリックが悲しみで顔を歪める。
「今があるから…大丈夫」
えっ。と声をあげるフリック。
「僕ね、今とても幸せなんだ。フリックがいてくれて、こんな僕を好きだと言ってくれる」
人を愛する喜びを教えてくれた。
人に愛される幸せを教えてくれた。
なんともいえない優越感が、心を落ち着かせる。
「この気持ちを胸に、僕は生きていける」
死のうなんて考えられない。
形容しがたい幸せが、僕を包み込む。
「いつでもフリックに抱かれてるみたいで」
途端にフリックが赤くなった。
自然と笑みがこぼれる。
すると、フリックは触れるだけのキスをよこした。
照れ隠しのつもりなんだろう。
ほんのりと、僕の顔も赤くなるのが分かる。
「大丈夫だから…死ぬのは僕の前にしてね」
ニッコリと微笑みながら、もう一度言う。
彼は呆れ顔になり、わかったよ。と小さ呟いた。
「死ぬのはお前の膝の上だな。…だけど」
「だけど?」
ハーッとわざとらしくため息を吐くフリックを見つめた。
「俺が死んだからっ…て、違う奴を好きになったりするなよ」
予想もしなかった言葉に、しばし面食らう。
次の瞬間には、僕は声をあげて笑い出していた。
フリックは不服そうに、眉を寄せている。
涙まで出てきてしまった目をこすりながら、フリックの耳元で囁くように話す。
『フリック以外愛せなくしたのは、フリックでしょ?』
僕の言葉に安心したように目を細め、抱きしめてくる。
それに答えながら、今この幸せに酔いしれていた。
いつくるかわからない別れに脅えるより
今あなたがくれる幸せを
僕に生きる勇気を