kuroneko
今日はいつもより日入りが早いのかもう、景色は黒のカーテンで覆われていた。
空気は夜独特の凛とした雰囲気に支配されていてひんやりと仁王の肌を刺していた。
いつも通り外に出て、見慣れたあいつの姿を探す。普段より視線を低くして、舌でチッチッと鳴らしながら首を左右に振る。
それが合図になったのか「ミャァ」と小さく声を鳴らし行進するかのごとく規則正しい足取りでこっちに歩み寄ってきた。
「お、今日も来たのぉ…。ちょっ、あわてなさんな。飯ならちゃんとこっちにあるきに。」
いつも通り来た奴に目線をあわせようと低い視線よりかがませると、注意力がお留守になっていた左手に持っていた猫缶を取られそうになる。
そんな、俺は猫じゃねーからとらねーよ。今だって、早くよこせて言わんばかりに俺に覆いかぶさるように、小さな手から少しの短いつめを出してカリカリと迫ってくる。
でも、どこかそれが嫌ではない。不思議なものだ。あんまりにも飯、飯!と騒ぐのでいったん奴を引き剥がしてから、それをそっと地面を置くと「待ってました。」と言うように小さな口と舌でがっつき始めた。
「よぅ食うのぉ…、おまえ、そんなんじゃ周りからひかれるぜよ?」
愛玩動物だからか、やはりどんな姿でも、自分で小さな生き物がご飯を食べてる様子は実にかわいらしい。この黒猫は見ていると癒される。
事実、何か特別な力があるのだろうか。いったん見るとそのあと目が離せなくなる。
「飯食ってしあわせか?いーのー、食って寝るだけの生活。俺もしてみとうよ。
俺なんか、まーいんち、テニス、テニス、テニス。腹黒部長筆頭に、年齢詐称とか、確率コケシとか、似非紳士とか、無駄に食べる赤髪とか、悪魔ワカメとか、はげとか。
無駄に個性の強い奴がいっぱいおっての…、俺も人んこと言える立場じゃないがな…。」
思い返す毎日に、ふと視線が空を捉える。どこまでこの星屑たちが続くのであろうか、音になった思いは考えると、とても充実感にあふれていてとても暖かい。
全てがただの陰口にしか聞こえないが、コレも全て彼らへの信頼の証なのだ。これに応えるかのように今まで餌に夢中だった猫も目線だけを起こしてしっかりと仁王の瞳を見据えていた。
「わかったんか、?俺の話。部活は毎日楽しーですよって話。判った、か。そーか、そーか。」
ぽんぽん、という擬声音がぴったりなほど、優しく自分の大きな手のひらで奴をなでた。くすぐったそうに目を細めると「クシュ」という間抜けな、くしゃみ、をした。
ブンが悪そうに前足で顔を丁寧にぬぐった。気が付けば猫缶は空。おなかがいっぱいになったのか、はたまた、飯がなくなったからなのか。猫らしく気まぐれに、そして規則正しい足取りで意気揚々と来た道筋を引き返していった。