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ダブルパロにするつもりが微塵もならなかったパロディな話

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セルティ・ストゥルルソンが背に腹は代えられず非常勤となった竜ヶ峰探偵事務所の所長は、竜ヶ峰帝人という狼男である。高くない身長に見合った童顔、イヌの耳のように逆立った髪の一部と相俟って無害そうな印象なのだが性格は守銭奴で容赦のないドS、自分が一番可愛いと公言して憚らないような魔王である、狼男だが。その助手である黒沼青葉も帝人より際立つ童顔と低身長で女子と言われれば信じてしまいそうな外見、しかしというかやはりというか他人を陥れることに躊躇を覚えない人間で、帝人の理解者を自称している。
 何故にこんな首無し妖精である自分でも遠慮したい魔窟と関わることになったのかといえば、博愛主義の吸血鬼が『首』を狙っているというので護衛を頼んだことに始まる。その時のことは思い出すと胃炎でも起こしそうになるので説明は省くが、帝人の狼男としての特殊能力を知ってしまったから、ではなくそれに起因する収集物を目の当たりにしてしまい、挙句に護衛対象だった筈の『首』を質に脅されているからである。セルティを愛してくれている同居人は、これで君は何処にも行けないね、と良い笑顔で言ってくれやがった、最早共犯としか思えない。そんなわけでセルティは今日も事務所から抜け出せないまま、何事もないよう祈りつつソファで寛いでいた。
 しかし無情にも事務所の扉は開く。
「よお、セルティ。竜ヶ崎いるか?」
『静雄!』
 現れたバーテン服の男に、それでも今日はマシな方か、と胸を撫で下ろしたところへ
「青葉君、特攻」
という物騒な言葉が上がり、言われた方はおりゃーとやる気のないかけ声でハリセンを客の頭に当てる。ぺそん、とこれまたやる気のない音がした。
「……竜ヶ崎、お前の家は客をハリセンで出迎えんのか」
「青葉君、何やってるの。特攻って言ったよね」
「無視か」
「いくら帝人先輩の言うことでも命は惜しいんですよ。大魔神が相手とか洒落になりません」
「失礼だな、この性悪ガキ共」
『落ち着け、静雄』
 青葉からハリセンを奪いグシャリと握り潰す男、平和島静雄は取立て屋である。この事務所が取立ての対象なのではないが、何かとトラブルを起こしたり巻き込まれたりし易い静雄が高い頻度で仕事を持ってくるのですっかり常連だ。ただ割りに合わない仕事ばかり持ち込むので守銭奴所長の中でブラックリストの上位から名前が消えたことはなく、顔を見るなり邪険に扱うので仲が良いとは言えないのだが。
「何の用ですか? 土下座して頼むなら3倍の額で引き受けますよ?」
「踏み倒す」
「帰れ」
 寧ろ土に還れとばかりに親指を立てて地面へと返す。ハハハハ、と2人して笑っているが双方共に眼が笑っていない。
『黒沼、帝人を止めないのか?』
「大丈夫ですよ、帝人先輩なら殺しても死にませんから」
それは憎まれっ子世に憚るというアレだろうか、と考えているうちに静雄が帝人の頭を掴んでギリギリと締め上げ始めた。
「ギャーッ!! 痛い痛い痛い何するんですかこの殺人未遂常習犯いい加減逮捕されろよグラサン野郎!!」
帝人は喚きながら静雄の手を筆記用具で刺しまくっている。刺さったそれらを抜くと血が垂れて床が汚れるので静雄の手は針山のようになっていた。見ていて気分が良い筈もないのに青葉は見慣れてしまったのか何処吹く風といった様子で、当事者2人はそれを作り出している側なので何とも思っていない。結局自分が止めるしかないのか、とセルティはない頭を押さえた。
『で、静雄は何しに来たんだ?』
「おー、そうだった」
 静雄が帝人を放り出すと帝人は岩塩を投げつける。再び攻撃しようとする静雄を宥めすかして用件を訊けば
「斬り裂き魔にストーカーされて困ってるから何とかしろ」
ということだった。
 普段ならこの手の依頼は事務所に持ち込まれる前に片がつく、静雄が力尽くで解決するからだ。それなのに今回わざわざ仲が良いとは言えない帝人に仕事を回すのは怪異から静雄へのストーカー被害で、家族や会社の関係者を巻き込みたくないからに他ならない。静雄は人情に厚い男だ。
「いくら払えるんです?」
だというのにこの守銭奴は、とセルティはヘルメットの額部分を押さえた。
 帝人は金にならない仕事はしない。生活がかかっていると言うがその台詞を吐く際の彼の笑顔は嘘臭いことこの上なく、器用な彼が暇さえあれば副業に勤しんでいることも知っている。必要以上に稼いでいるのは間違いない。それでも金を払わない客(主に静雄)からの依頼を悉く断るから、毎回のようにセルティが単身で動き回っている。こういった雑用を押しけるために雇ったのだろう、給料は安くないがどんなに働いてもその額がびた一文でも変わったことは一度もない。
「金はない」
「還れ、土に」
ああ今回も単独行動になるのか、と諦めた直後、しかし静雄は茶封筒を出して帝人へ投げ渡した。
「何ですか、お金以外で僕が動くと……、……青葉君、出撃用意して」
「何色にします?」
「全色。何が何でも捕まえるから」
反応を変えた帝人にイェッサー、とやる気があるのかないのか分からない調子で返事をし、立入禁止と書かれた倉庫(帝人曰く宝物庫)へ入って行く青葉に嫌な予感がして、帝人の手にある写真らしきものを覗き込む。
「癪ですが今回だけは引き受けてあげます。この人はどうなっても構わないんですよね?」
「そうだな。ついでにお前ごと警察に捕まれ」
「コレクションを残して豚箱になんか行けません」
嫌な予感は的中した。斬り裂き魔の虹彩は赤い。
 狼男は生体の一部へ接触することで得られる情報に依存性の高い快感を覚え、個体によっては変身することでその部位に関係する特殊能力を使う。帝人が金銭以外で動くとすればその執着した部位が絡んでいる時だけだ。そして執着部位は眼球、特に虹彩、倉庫にはどうやって手に入れたか知れない、知りたくもない眼球がずらりと並んでいる。特殊能力を使える帝人に趣味と実用を兼ねて色相毎に並べられたそれを見た時のことは、ちょっと思い出したくない。
「ふふふ……、赤は最稀少、こんな形で手に入るなんて……」
 既に笑い方がおかしな方へ変わり始めている。今回のセルティの仕事は移動中に眼球が傷まないように運ぶことになるだろう。そして仕事が成功した場合、その眼球の中には斬り裂き魔のそれも含まれる。
――斬り裂き魔、逃げろ、全力で逃げろ
 セルティの祈りも空しく、その晩に彼等は斬り裂き魔と対峙することになる。