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東方~宝涙仙~ 其の玖(9)

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東方〜宝涙仙〜




「この爆発の犯人は…アナタですか?」





ー紅魔館(爆発後)ー
 爆発した紅魔館を一人かけまわっていた。一部が爆発した紅魔館に取り残されたまま身動きの取れない人を探し、彼女は走る。
紅魔館の全員を救いたいのだろう、彼女がいつもは怠け者でめんどくさがりだがこういう時には正義感が強い。
 メイド長として。

「誰かいる!?」
 そう叫びながら彼女は部屋をひとつひとつまわってゆく。
今のところ見た部屋はどこも誰もいないようだ。トイレにエントランスに料理班班長の部屋に副メイド長の部屋に門番の部屋など、ただ誰一人として人影はなかった。
しかしそれではいけないのだ。外に集まっていたメイドは明らかに紅魔館で雇っている人数より少なかった。おそらく爆発の影響のなかった部屋で爆発に気付かずいつも通りに仕事をこなしている者もいるだろう。それでもメイド長はもしかしたらの場合を考えて少しでも逃げ遅れた者を探す。

「さすがにここにはいないよね」
 メイド長は今自分の部屋の前に着いたところだ。自分の部屋には基本的に自分以外の者がいることはない。それにドアの隙間から光が漏れている様子もないから人がいたとも思えない。メイド長はそのまま自分の部屋を通り過ぎ、先を急いだ。
走るメイド長に置き去りにされた部屋のドアの隙間から一瞬白光が漏れたが、背中を向けたメイド長が気付く事はなかった。

「誰かー!もしいたら返事しな!」
 煙の巻き起こるなか、そんなことを気にもとめず、廊下でメイド長は大口を開けて叫び続けた。
「ふ…うか…さん。あ…いえ、メイド……長……」
 メイド長の呼びかけに誰かが応えた。掠れて生まれたばかりの鳥のように弱々しい声だが、メイド長の耳にも届いた。
「だ、誰!?というかどこ!?」
 メイド長は必死で声の主を探し始めた。
「ここです…」
 煙と崩れ落ちた壁や天井で隠れた廊下から声がする。その場所は第二キッチン付近の廊下で、元々狭い廊下だったが崩れ落ちたものによってもはや通れない状態になっていた。
メイド長は瓦礫と化した壁や天井の崩れ落ちたものをどかし、声の発信者を探した。
 瓦礫の下から足が生えていた。
「足…。今引っ張るからもうちょっと生きてて!」
「お…お願い…しま…す」
 全身全霊全ての力を込めて瓦礫から一人の人を引出し救助に成功した。
「やっぱあかりだったのね、声的にそうだと思った」
「うごへっ…ありがとうございます…」
「よかった、一人でも多く助けれた。大丈夫?歩ける?」
「足はなんとか無事なので歩けます。本当にありがとうございます…私…」
「話は後!まだ人命救助続けなきゃだからとりあえずさっさと外に逃げなきゃ!アナタの他に近くにメイドはいた?」
「いえ、第二キッチン付近は私一人でした。でも大キッチンのほうは料理を用意していたのでもしかしたら…」
「いるかもしれないわねぇ。とりあえず全てはアナタを外に送ってから」
「すいません…」
「はぁ、謝らなくてもいいのに」
 メイド長の呆れた顔の裏には安心感の笑顔があった。仲間を一人でも多く助けれたことに満足した笑顔ではなく、仲間が一人でも多く生き残ってくれたというありがたみに笑顔を見せたのだろう。

 二人は走り出した。あかりが負傷しているためあまり早くは走れてはいないが、小走り程度に走っていく。
二人がメイド長の部屋の前を通り過ぎる時、二人の後ろで何かが崩落する音がした。驚いた二人は同時に後ろを振り向く。
 目先に映るのはさっき踏んだばかりの床に開いた大きな穴と、舞い吹く濃い煙だった。穴の周りに炎が散る。
「爆発犯登場ですかー?」
 目を鋭くするメイド長が床の穴に向かって語りかける。
 
「やっと、地上かしら?」
 煙の向こうから声が近づく。
「随分と深いとこに監禁したのね、お姉さまは」
 黄色い髪にフリルのついた帽子。まるで枝に多色の宝石がついたような奇妙な羽。そして炎を纏う時計の針のような棒を持った少女が姿を見せた。
「ねぇ、新メイド長?」
 今まさに牢獄から抜け出した少女"フランドール・スカーレット"がそこにいた。

「この爆発の犯人は…アナタですか?妹様…」
「違うわ」
「嘘をおっしゃらないで下さい。この館でこのような事をするのは基本アナタしかいないでしょう」
 従者とは思えない態度と口ぶりでフランドールに疑惑をかける。その姿もある意味瀟洒なメイドといえるかもしれない。
その二人にあかりは真実を伝えようと口を挟もうとする。 爆発の原因は自分が壊れたコンロを起動した自分のせいだと心の中で責めている。しかし、ここで口を挟めばメイド長は妹様に対して非常に無礼な事をしたこになる。
だから言おうにも言いにくいのだった。

「あかり!とりあえずここは逃げよう!妹様なんて敵うはずがない!」
「え…その、私は…」
「いいから早く!!」
 あかりの手を強引に引いてメイド長はフランドールから逃げた。
「待ってふたりとも、フランはもう誰も壊さないから!お話聞いて」
 フランドールが二人を止めようと呼びかける。フランドールは今は本当に狂気が抜けているようだが、二人はそんなことを信じるはずがない。
「信じちゃダメ!あかり、頑張ってもっと早く走って!」
 フランドールの言葉に聞く耳も持たずにメイド長は逃げようとする。しかしあかりはフランドールを信じて話を聞きたいらしく、メイド長の指示にあまり従ってない。おもちゃコーナーから出たくないが親に連れていかれる子供のように無理やり連れられている。
 フランドールは諦めた。フランドールは今まで、元メイド長咲夜を殺害したと疑惑をかけられそれを否定した結果監禁されていた。そんな自分を周りが信じるはずがないと自覚したのだ。
自分が本当に咲夜を殺していないのか、自分でもそれがわからなくなっている。もしかしたら自分が殺したかもしれないと牢獄で何度も悩んだ。
 フランドールは狂気を持つ自分に気付いてから自分が嫌いでしかたなくなってしまった。壊すつもりがない物も壊してしまう自分が嫌いで仕方ないのだ。自分が嫌いで仕方ない、それを考えるとまた狂いだしてしまう。そんな繰り返しだ。繰り返し繰り返し、何度も何度も繰り返し繰り返し、そして自分を壊したくなる。
 
 大きな穴の前で従者に信じてもらえず残された金髪の少女はぽつんと立ち尽くしていた。まるで少女の形をした石像のように。
自分の今までの行いでこんな扱いされるようになったのだと考え、涙がこぼれた。しかし彼女は涙を拭いて、とりあえず姉のレミリア・スカーレットを探すことにした。
「お姉ちゃんに謝ろう。フランが殺したんじゃないと思うけど…でももしかしたらフランが殺したかもしれないし。お姉ちゃん、許してくれるかな…」
 石像は一人でつぶやく。煙が舞い、炎が伝う廊下でただ一人。その宝石のような羽を動かし石像は動こうとした。

「ふーらんちゃん」
 石像の声以外の声が聞こえた。
幼い声?幼さと大人びた声の中間くらいの。
どっちにしろ廊下にはただ一人じゃなかった。
「ふーらんちゃん」
「チルノ?」
 石像の首が後ろを振り向ける。

「お…お前は……」
 目の前に映る姿を見て