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昨夜のアリバイかい? それならば彼は俺と一晩中一緒だったよ

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 話しかけるアカウントを間違えちゃったのも、俺、少しは反省してるけど、とごにょごにょと不明瞭に続く言葉にイギリスは首を傾げる。アメリカは何をいっているのだろう。考えを巡らしたあと、時が止まった。一瞬で心臓も凍りつく。
 イギリスは複数のアカウントを持っている。ひとつは世界中の他国と共有しているもの、もうひとつはアメリカとだけ共有しているもの。他国と共有しているものは全世界の誰でも見れるが、アメリカと共有しているアカウントは、鍵をつけているのでアメリカにだけしか見られない。
 アカウントの切り替えを間違えた、ということは。全世界に向かってアメリカとの惚気話を公開しているも同然で。
 フランスが妙にやさしかったのは、他国と目が合うたびに申し訳なさそうな視線を投げられていたのは、ドイツに肩を叩かれてねぎらわれたのは、奴隷の格好をした日本に「間違いは誰にでもありますから」と諭されたのは、ロシアに鼻で笑われたのは、このせいか。
「ね。……もしかして、だよ? 君、もしかして全世界に向けて、俺と君との仲を公表したかったのかい?」
 頬を真っ赤にしているアメリカが、珍しく歯がゆいような顔で笑っている。違う。叫びたいのに口が喘ぐ。あいまいな表情は、微笑んでいるように見えてしまったかもしれない。
「わざと間違えて、君が俺のものだって、世界中にいいふらしたかったの?」
 携帯を胸ポケットにしまったアメリカが、空色の目を細めて照れ臭そうに笑う。違う、単純にイギリスが間違えただけだ。脂汗の滲む頬に手を添えられて、唇をついばまれる。昨日の甘ったるい余韻が香るようなやさしいキスだった。
 アメリカの勘違いを訂正するよりも何よりも、明日からどうやって他国の痛々しい視線から身を守って生きていこう。
「……イギリスのばか」
 囁く声は甘く、上擦るようなうれしさを隠しきれていない。素直に、甘いキスを交わせるのは嬉しいことなのだけれども。公開処刑、という単語も頭に浮かぶ。
 ああ、死ぬなら今が一番いいかもしれない。




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