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感情を煮詰めたらきっと涙になる

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「好きよ」
 そう言った途端、オオワシの瞳は揺れた。条件反射にも等しく浮いた涙はそのまま留まり、彼の目を宝石の如く輝かせる。
「うそだ」
 それだけをようやく紡ぐ口唇も言葉も、少し毛羽立った翼も、いっそ身体ごと震えていた。思慕、痛傷、恋情、疑心、その眼に映す彼女への感情全てが涙の中を泳ぐように浮いている。
「好きよ」
 彼の心を傷つけたのは他の誰でもなくシロフクロウで、だから信じてくれないのも理解している。それでも言葉を重ねるのは信じて欲しいからではなく言えば彼が泣くから、彼の泣き顔を欲しいと思うからだ。
「嘘だッ」
 先程より強い口調で言葉は放たれた。
「嘘じゃないわ、大好きよ」
それに対して飽くまで穏やかに返せば彼は俯いてしまった。これでは折角の可愛い顔がよく見えない。下から覗き込もうと一歩寄れば、拒絶するように寄った以上の距離を取られた。弾かれたように涙が宙へ散る。
「貴女がッ、貴女が何を考えてるか分からない! 俺をどうしたいんだ!?」
喚きながら彼は二の腕から手甲までを覆う布で涙を拭ってしまった。
 勿体ない。涙は彼の悲痛を彩ってこそ価値がある、そうでなければただの塩水だ。布に吸収させてしまっては無意味として差し支えもない。睨むように彼を見れば表情に怯えが混じった。
「言わなかったかしら? 無様に泣く貴方が見たいって」
 再び一歩近づいて彼の右頬に触れる。あの時につけた傷はもう塞がっていて見る影もない。せめて痕になるくらい、心と同じくらい傷つけておけば良かった。
「貴方の泣き顔が一番好きよ。でも笑顔も怒った顔も困り顔も嫌いじゃないわ、好きよ。貴方が可愛いから当然よね」
痛みでも思い出したのか、また爪を立てられると思ったのか、彼はビクリと身を竦ませて更に退ろうとする。なので頬に触れていた手を滑らせて耳を弱く掴み、それを阻む。そのまま引き寄せてパンダを消すと言った時と同じ程の至近距離で彼の顔を見れば、その眼はまた少なからず潤んでいた。
「裏切ればその結果がどうあれ、貴方はもう私に笑いかけてはくれないでしょう? それはとても心残りだけど、どうしても貴方に泣いて欲しかったの。出来れば私のせいで」
 向けられた感情にどう応えれば良いのか、そして自分の感情すらどうすれば良いのか分からずに歪む表情は今にも泣きそうだった。
「大好きよ、だから虐めたいの」
もう聞きたくないと耳を押さえようとする手に、許さないと指を絡めて封じてしまう。
 聞かなかったことになどさせない、絶対に。
「愛してるわ、オオワシ」
 目元へ唇を寄せて味わう涙は塩辛い筈なのに甘露のように思えた。