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「明治」が始まった夜

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※「未来へ・・・」から続いています。


やっと、未来へ踏み出すことができる-そんな思いをかみしめて、剣心は薫の手を握って、東山にあるその日の宿へ向った。

夕食を済ませ、風呂から上がった後、障子をあけて、縁側に腰掛け、二人は東山とその上にかかりはじめた月を眺めていた。

「きれいだね・・・京都の月って。志々雄との戦いのときは、月を楽しむ余裕なんてなかったから、気づかなかったけど・・・」
「ああ。拙者も・・・。薫殿とこうして二人でみて、初めて、京の月が美しいと思ったでござるよ」
「剣心ったら・・・お世辞が上手なんだから」
「おろ?世辞ではござらんよ。ほんとうのことでござる」
そう言って、剣心は薫の手を取った。
「薫殿といっしょにいて、初めて・・・月も、花も、星も、山も・・・美しいと思えるのでござる・・」
「剣心・・・」
薫はぽっと頬を染めた。風呂上りで上気した顔に更に紅をはいたように、頬が赤くなって、それははっとするような艶っぽさだった。

「・・・・っ!」

剣心はどきっと体が熱くなるような気がして、あわてて薫の手を離した。
「あ・・薫殿、疲れたでござろう?先に休むといいでござるよ?ずいぶん今日は歩かせてしまったから・・」
「あ・・・うん・・・」
頬を染めたまま、薫は縁側から立ちあがった。そこで、足元の明かりにつまずきそうになり、体が左に傾く。
「あぶない!」
剣心はバランスを崩した薫の体を背中から両腕で受けとめて支えた。
「大丈夫でござるか?薫殿?」
「あ。うん、ごめんなさい、剣心。なんか、足元ふらついちゃって・・・」
「きっと疲れたんでござるよ。ゆっくり休むといい・・」
そう言って、薫の体を支えたまま立ち上がった剣心だったが。ふいに、薫の湯上りの香りが立ち登ってきて、薫の体に回した両腕を離しがたくなった。むしろ、その両腕に力を込めてしまった。思いっきり、薫を抱きしめてしまった。

「!・・・けん・・しん?」
「あ・・・すまん・・・拙者・・・」
剣心はすぐに我に返って、薫から自分の身を離した。
「薫殿・・・拙者・・・・」
しかし、その後の言葉が続かなかった。

あまりにも愛おしくて。あまりにも長いこと、耐えていて。薫に触れることを。薫に思いを伝えることを。

一度離した両腕で薫を背中から再び抱きしめてしまった。

「剣心・・・・」
「薫殿・・・薫殿、薫殿・・・薫・・・」
「あ・・」
「薫・・・薫・・薫・・」

薫の名を呼び続けながら、剣心は薫を背中から抱きしめ続けていた。一度離したら、二度ととりもどすことができないとでもいうように。

薫は剣心の手にそっと自分の手を重ねて、剣心のほうへ振り返った。
「剣心・・・・・・」
「薫・・・拙者・・・・・・・」
剣心は声をかすれさせて、薫に顔を近づけた。唇を重ねる。おそるおそる。まるで壊れ物に触れるように。

薫の唇は甘かった。温かかった。

生きていると・・・自分が生きていると、自分に血が通っていると。剣心は10年ぶりに、あの悲しい幕末の夜から10年ぶりに、初めて、自分が生きていると実感できた。

「か・・お・・・る・・・」

剣心はその名をつぶやいて、再び薫の唇へ自分の唇を重ねた。一度。二度。三度・・・。

「あ・・・・」
薫が甘い声をもらして、崩れおちそうになる。剣心は薫を支えながら、二人で畳に崩れ落ちる。
その間も、口付けを繰り返し、薫の唇を吸い続けた。
剣心は高まる気持ちのまま、薫を畳に押し倒した。
「け・・・ん・・し・・ん・・・」
「薫・・・・」
剣心は薫への口付けを続けながら、その手で薫の髪や頬を愛撫する。
「薫、薫、薫っ!・・・・・・」
剣心は薫の白く細いのどへ口付けを移していく。
「あ・・・けんし・・・ん・・・」
薫がびくっと体を振るわせた。

(あ・・・・拙者・・・)

剣心は薫がおびえるような目をしているのを見て、はっと我に返った。

「すまぬ!薫殿、拙者、つい・・・」

あわてて、身を起こして、薫の体から離れる。
「薫殿、大丈夫でござるか?無体なことしてしまって。すまないでござる」
「剣心・・・いいの・・あやまらないで、ちょっとびっくりしただけ・・・」
「すまぬ、薫殿・・・拙者、薫殿の気持ちも無視して、勝手に・・・」
「勝手じゃないよ・・・剣心、私も剣心とこうして・・近くにいれてうれしい。剣心と・・・一緒にいられてうれしい。だから・・・・」
「薫・・・ど・・の・・・」
「さっきは、薫っていってくれた・・・・」
「薫・・・」
「やっと・・・二人きりになれた・・・やっと私たち、気持ちが通じあえた。だから・・・私、もっと・・・もっと、剣心にちかづきたい・・・剣心と・・・」
「・・・薫!・・・」

ああ。もう・・・だめだ・・・。この切なさ。この苦しさ。この愛おしさ・・・。
剣心の心を熱い激情が渦巻く・・・。

しかし、強い意志の力で、自分の体を薫から離した。

「薫・・・。ありがとう。拙者も薫ともっと近づきたい。薫と・・・一つになりたい。でも・・・それは・・・薫と婚姻してから・・」
「えっ?」
「いや、あの・・・拙者、薫を妻にしたいのでござる。それから・・・だと思っているのでござる。その・・・薫と一つになるのは・・」
「剣心・・」
「承知・・・してくれるだろうか?拙者の妻となることを・・」
「剣心・・はい・・・もちろん、だよ・・・」
薫の頬に一筋の涙がこぼれ落ちる。
「ありがとう、薫殿・・・」
剣心は薫を今度はやさしく、やさしく抱きしめた。
「剣心ったら・・。また、「薫殿」に戻ってる」
「おろ?」
「さっきみたいに、薫って呼んで?」
「薫・・・」
「うん・・」
「薫・・・東京へ帰ったら・・・薫の準備が整ったら、婚姻しよう。拙者、もう、それほど、長く待てぬ・・・待てないんだ・・・」
長く、長く、待ったから。今まで、ずっと。薫を腕に抱くことを、薫に思いをぶつけることを。

「はい・・」
「それまでは・・・」
「え?」
剣心は薫に顔を近づけて、再び唇を重ねた。
「それまでは、ここまでで我慢するでござる・・」
「剣心ったら」
「これでも・・・十分すぎるくらいだ・・・ありがとう、薫・・・」

いろいろあった。これからも、いろいろあると思う。でも、二人なら、きっと乗り越えられる。二人ならきっと立ち向かえる。支えあえる。
やっと、始まったのだ、二人で歩き出す日々が。二人、横にならんで、歩いていく日々が。

(この日を忘れない。きっと、死ぬまで。いや、死んでも・・・・。薫と、歩き出した日を・・俺の「明治」が始まったこの日を・・・)


その夜、剣心は、薫をその腕に抱いたまま、まぶたを閉じた。二人が初めて寄り添いあって眠った夜だった。


作品名:「明治」が始まった夜 作家名:なつの