世界配信
弟が晩飯を食いに、うちに来た。
今日もご機嫌だ、また恋人とのノロケ話を俺に聞かせるつもりなのだろう。
当事者でいることもなかなかに辛いことだとは思うが、このノロケ話もなかなかに・・・おや?
「あ?ってちょっ。キス写真〜?つかこれ何でこんなに色々書いてあるんだ?」
それはケータイに保存された、俺の弟とその恋人の写真だった。
恋人は驚いたような顔をしている、普段クールなそいつなだけに、全く滑稽で。
「これねぇ〜、日本に行ってぷりくら撮ってきたのぉ〜。」
「ふ〜ん・・・日本ってほんと俺たちの考えつかないもんよく作るよなぁ。キレイに撮れてんじゃねぇか。
兄ちゃんにこの画像送ってくれねぇか?」
俺はそれを見た瞬間に、滑稽なこいつを更に冷やかす最良の方法を思いついた。
俺は弟の恋人・・・クラウツが、大嫌いだ。
「え?いいよぉ。でもいるの?」
さすがにこのおバカさんな弟ですら、俺がクラウツを嫌っていることを知っている。
首を傾げ真意を伺っていたが、俺がにこやかに笑ったことでまんまと騙されてくれたようだ。
「ヴェネチアーノが可愛く写ってるからな。兄ちゃんもらってもいいだろ?」
「うん、分かったぁ!今送るねぇ!」
全くおバカさんで可愛いやつだ。
次の日。
俺はイギリスの家を訪れた、嫌いな奴だが腐れ縁で、何となく一緒にいることが多い。
イギリスは書斎で、またニヤニヤと手紙を読んでいた。
この情報処理技術が発展した世の中に、野郎はまだまだアナログな方法で叶わぬ恋に心血を注いでいる。
「おい、気づけよ。今度は何だ?」
「・・・何だ」
「だから、今日のお手紙は何だって聞いてんだよ・・・ってぶふぅwwwおまwww飲み過ぎ注意だぜwww」
「てんめぇっ何取り上げてんだよっ!!あぁっチクショウ返せっ!!」
前にもこんなことがあったような気がする。
イギリスは俺より背が低い。
だから俺が手紙を高く掲げると、奴は届かなくて困るのだ。
俺はこれで毎度毎度嫌がらせが出来るから、イギリスは良いことにしてる。
さぁ、今まで悔しいくらい嫌がらせが出来なかったクラウツに嫌がらせが出来る。
俺は全く、ニヤニヤが止まらなかった。
「あぁもうっ、てめぇはいつもいつも同じネタで引っ張るんじゃねぇよ!!何の用なんだ馬鹿野郎!!」
「いやぁ、面白いネタを仕入れたからよ。これは情報共有しようかな、ってな。」
「あ?何だこれ、しゃぶぅっ!!」
見た瞬間に、イギリスは笑い転げた。
笑いが止まらない。
そりゃそうだ。
俺もおっかしくってたまんねぇからな。
「わはははははははひぃーっ!!何なんだよこれクラウツのバカ!!大爆笑だぜこれはぁーっ!!」
「だろ?これでよぉ、野郎をからかおうぜ。」
「うはははっ・・・同感だっ。
しかし、どうやって?」
「世界配信するんだよ」
「にほ〜ん!日本見たかい?これ!!おっかしいんだよ〜きっと笑うよ!!」
「あ、あぁ・・・あ、あはははは」
「だろう?おかしいだろう?ねぇ〜っ!」
アメリカさんが、私に例の写真を見せに来た。
ドイツさんと、イタリアくん。
これはチュープリ。
この写真がどこで撮られたのかは、話に伝わるうちに闇へ消えてしまったらしい。
私だけが真相を知っていた。
「ねぇ日本、僕もこれやりたいよ。日本が僕にチューしてさ!でみんなに見せいたぁっ!?」
「おバカも大概になさい♪」
「痛いよ!すぐ手を出すの悪い癖だよ日本ー!!」
あぁ、当事者たちの反応が楽しみだ。
慌てふためき説教を食らい、ひどく落ち込んで立ち直れなくなっているだろう。
「ハンガリーさんに連絡しようっと。」
「え?日本〜プリクラ撮りに行こうよ〜ぅ!!」
「浮かれているからこんなことになるのです、このお馬鹿さんが。」
「フランスに漬け込まれるとは何事ですか、全く。」
「節度というものを覚えなさい。はしたない」
「あれは・・・イタリアが・・・」
「何でも人のせいにするのではありません。」
「イタリアを抑えられなかったあなたが悪いのですよ、ドイツ」
「お・・・お・・・俺はぁぁあ!!」
ドイツはオーストリアに延々と説教を喰らっていた。
世界中がこのチュープリを見た、
イタリアと仲のいいポーランドなどはカワイイと大絶賛し自分たちも撮りに行くと我が侭を抜かしていたらしい。
ドイツはどこへ行っても指を指され笑われ、相当な屈辱を味わっている。
「はぁ・・・何でこんな目にあっているんだ・・・俺は・・・」
オーストリアの説教がやっと終わり、自室のベッドに横になった。
そう言えば、フランスに世界配信されて以来、イタリアの顔を見ていないことを思い出す。
さすがのあいつも、俺の度重なる屈辱を感じ取って近寄らないのかもしれない。
ドイツはそう思い、やりかけの仕事に手をつけることもできないまま、眠りに落ちた・・・
背中に、温かい物体がくっついていることに気づき目を開けた。
・・・3時か。真夜中だ、ドイツの迷惑などイタリアは考えない。
微妙に、泣いているのか?しゃくりあげるような声がする。
全く、しょうがない奴だ。
「・・・イタリア」
「ドイツ・・・ドイツごめんね、ごめんなさい俺、俺が考えないでぷぎゅう」
「喚くな。俺は怒っていない」
「・・・ほ、ほんと?」
確かに屈辱は、痛いほど感じたということ。
フランスは間違いなくボコるということ。
オーストリアにまでバレたのは大失敗だったこと。
でも。
プリクラは今でも手帳に貼ってあるし、結局後悔していないこと。
「・・・俺はバカだな」
「・・・ふへ、ふにゃ〜ドイツー!!俺スッゴい嬉しいよ〜ぉ!!」
きつく抱き着かれ、苦笑いがデレ笑いになりそうになって堪える。
「ね、ねぇじゃあしよ?エッチしよ?」
「・・・何故」
突拍子もなくそう言ったイタリアに笑いが堪えられなくなり笑ってしまう。
それを了承と捉えたのか服を脱がしにかかってくる、
あぁ、訪れる朝焼けを迎えられそうにない。
「愛の交換しよ?」
「難しく言ったつもりか?」
「フランス兄ちゃんが教えてくれたの」
イタリアにとってフランスは、実の兄弟よりも絶対的な存在らしい。
奴を何とかしないと、いつまでも俺だけのものにならないかもな。
ふと思って、キスで思考が止められた。
別にフランスを何とかしなくても、イタリアに一生ハメられ続けるのも、悪くないか。
そう思った。
「なぁ。」
「何?」
「さっきの。交換、が間違ってるぞ。」
「え〜?」
「それを言うなら、愛の交歓、だ。」
「え〜。何か分かんないよぉ。難しいコト考えないで、しちゃおうよ?」