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笑い事じゃない

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笑い事じゃない
「よーうじ! 帰ろうぜー」
 短いホームルームが終わるとすぐ、睦は鞄を肩に掛けてとある同級生の席へ行く。彼は同級生だが本当はひとつ年上で、本人も同級生たちもそのことを気にしているきらいがあった。だから彼に積極的に関わろうとする生徒は少ない。それが少し歯痒いと睦は常々思っている。
 睦は、同級生たちとは違う。
 ひとつ年上というだけで敬遠されている蓉司が、本当はいい奴だと知っているから気後れすることもなく話しかけるし、つるんでいる。とはいえ、今では別の理由もくっついているのだが。
「今日は一緒に帰るって約束、忘れてないよな?」
「あぁ、覚えてる。靴、見るんだろ」
 身を乗り出して蓉司に問えば、睦を喜ばせる返答。我が意を得たりとばかりに頷く。
「そうそう! でもその前に、バーガー屋寄っていい? 腹減ってさー」
「言うと思った」
「あれ、バレてる?」
 なんでだろうと思っていると、蓉司は苦笑しながら理由を教えてくれた。
「前にCD屋行った時も、行く前に寄っただろ。食べ物屋」
「そーだっけ?」
「そうだよ。……支度できた」
 生真面目にノートと教科書の全てを持って帰る蓉司の帰り支度が済んだのを確認すると、二人は連れ立って教室を出る。
 実は、この帰り道が一番好きな時間かもしれない。
 下駄箱で靴を履き替え、昇降口を出ると睦と蓉司を迎えてくれるのは夕焼け空だ。雲まで朱色に染まった空は嫌いではない。
 ちらりと隣の蓉司を窺う。自分とは違う漆黒の髪も、今だけは同じ朱に染まっていた。肌の色も健康的に見える。病弱な蓉司は頻繁に体調を崩しているから、青白い顔をしているなどしょっちゅうだ。
 そんな顔をしてまで学校に来る必要はないと睦は思うが、出席日数のことを考えればたしかに一日でも多く学校に出てくるに越したことはない。――それに、本当は学校で蓉司の姿を見ないのは、少し寂しいと思う。
「……疲れてるのか?」
 不意に出た欠伸を噛み殺せず、大きく口を開けてしまったのを蓉司に見られてしまった。照れ隠しに後頭部を掻きながら、
「んー、ちょっと寝不足。遅くまで起きてたからさ」
「またゲームか?」
「そんなとこ。ついつい夢中になっちまうんだよなー」
「ここのところ、ずっと眠そうなのって、それが原因?」
「うん、まぁそうかな」
 へへへとおどけた睦の笑顔につられるように、蓉司も微笑する。ちくりと胸が痛んだが、そんな笑顔を見られたのだから良いかと思い切ることにした。
 胸が痛んだ理由。
 夜更かしの原因は、ゲームなどではないからだ。
「それだけ夢中になれることがあるって、なんだかすごいな」
「そっかー? 蓉司はゲームとかやらんの?」
「やらない、というか、うちにないし」
「プレステも?」
「ない」
「今時珍しくね?」
「そう、かな」
「そうだって。今時プレステかWiiかX-BOXかDSかPSP、持ってないほうが珍しいって。……あ、そうだ」
 名案を思いついたというように、睦の顔が輝く。
「じゃあさ、今度蓉司ん家でゲームしねぇ? 俺、持ってくからさ」
「うちで?」
「そ。テレビくらいはあるだろ?」
「あるけど」
「じゃー決まり! な!」
 ちょっと強引だっただろうか。内心では冷や汗ものだったが、蓉司は気を悪くした様子もなく「わかったよ」と応じてくれた。
「じゃ、今度の週末は?」
「バイトが入ってる。来週だったら大丈夫だけど」
「んじゃ、来週末ね! けってーい!」
「でも俺、本当にゲームとかしたことないんだけど」
「大丈夫大丈夫、初心者でも取っつきやすいゲーム、持ってくからさ。やってるうちに熱中しちゃうぜ!」
「わかった。楽しみにしてる」
 夕陽を受けて笑う蓉司の顔は、クラスの女子に負けないくらい、いやそれ以上に綺麗なんじゃないかと睦は思う。そんなことは口には出さない、出せないけれど。
 また湧きかけた欠伸を今度は噛み殺すことに成功する。まったく、今日は早く眠れればいいのだが。
 ここのところ睦を寝不足にさせている原因。
 それは――
「睦?」
「……うわっ?!」
 視界一杯になるほど間近な蓉司に、思わず飛び退ってしまったほど驚かされる。蓉司はといえば、機嫌を損ねた風でもなく、不思議そうに首を傾げて睦を見つめている。
 そんな間近に来られると、例え相手が蓉司でなくても驚いただろう。だが蓉司だったから、必要以上に反応してしまった。心臓はばくばくと脈打っている。  おかしく思われたりしないだろうか。
 不安は杞憂に終わる。
「大丈夫か? ぼんやりしてるけど」
「だ、だいじょーぶ!」
「もし眠いんだったら、今日は早く帰って寝たほうがいいんじゃないか?」
「いやいやいやいや、大丈夫だから! ちょっと蓉司のこと考えてただけ……っ」
 言わなくてもいいことを口走ったことにすぐに気付き、思わず手で自分の口を塞ぐ。焦りまくる睦の内心など気付かぬ風で、蓉司は小首を傾げた。
「……俺のこと?」
「え……いや、まあ……えーと、その、持ってくゲーム、どんなのが蓉司に合うかなあって、な! そーゆーコト!」
「ああ、なんだ……気が早いんじゃないのか? 来週だぞ」
「いやいや、時間なんてあっという間に過ぎ去っちゃうモンだし! 今から考えておくに越したことはないっ!……なーんて、な」
 後半はいつもの調子を取り戻したようにおどけてみせれば、誤魔化しはどうやら成功したようである。それ以上は蓉司も問わないでいてくれた。
 ――危ない危ない。
 もし気付かれたら、避けられてしまうかもしれない。言えるわけがない。
 ――蓉司の声が耳について眠れない、なんて……言えるわけねーじゃん。
 それだけは何としても隠しておきたかった。
「睦?」
「っ、はい何でしょうっ!」
「着いたけど」
「へ?」
「バーガー屋。食べるんだろ?」
「あ、ああ、うん! 食うぞ〜、ハワイアンバーガー!」
 新製品のハンバーガーの名を呟き、気合いを入れて見せる。笑いながら一緒にバーガー屋に入った蓉司は、いつもと同じ飲み物だけだろうか。一口くらい、ポテトでも食べてくれるといいのだけれど。
 勝手に蓉司の分のポテトも注文しながら席へ落ち着く。
 こういう時間を、壊したくはない。
 だから隠しておこうと心に決めていた。
 それがいつまで保つか、なんてわからないが、今はそうするより他にないと思い込んでいた。
作品名:笑い事じゃない 作家名:おがた