旅立ちのとき
「京都どうだった?っていうか、お前、京みやげくらいねーのかよ?」
「左之助、菓子をいろいろ買ってきたでござるから・・・」
「甘ったるい菓子なんていらねーよ。ちぇっ、京のうめー酒でも飲めるかと思ったのによう。酒はねーのかよ?」
「ははは、すまぬ。つい、いろいろと忙しくてな。」
「はん。「いろいろ」ね・・・。そこんとこ、聞かせてもらおうか?」
「え?」
「とぼけんなよ、嬢ちゃんと、「いろいろ」あったんじゃねーのかよ?」
「はは、そりゃ、まあ、いろいろと・・・」
「あったのかっ!?」
「あったような・・・ないような・・」
「なんだ、そりゃあ!?」
「ただ・・・」
「ただ?」
「薫殿に、妻になってほしいと伝えたでござる・・・」
「妻に。ほう、そうかい、・・・・って!?!おい、マジかよ!?お前、とうとう言ったのか?」
「ああ。」
「そ。それで、返事は?嬢ちゃんの返事は?」
「はい、といってくれたでござるよ」
剣心は、はにかんだ笑いをうかべた。
「おおっ!!やったな、剣心!やっと、決心ついたか!おめでとさん!」
左之助は剣心の背中をばん!とたたいた。
「嬢ちゃんも、嬉しかっただろうなあ!俺もうれしいぜ!二人がやっと・・・結ばれることになってよ。お前たち、いろいろ乗り越えてきたもんな・・・」
「左之助・・・」
「それによ、剣心、お前も、シアワセになっていいんだぜ。お前だって、過去を乗り越えて、今、こうしてここにいる。生きてる。それは、シアワセになっていいってことだぜ。」
「左之・・・ありがとう」
「へっ!これで、心配事が一つ減って、せいせいした気持ちで旅立てるぜ」
「旅たつ?」
「ああ。俺、もっと広い世界見てみたくてよ。大陸へ渡ってみらあ」
「大陸へ?」
「ああ。そろそろここを立つころだと思ってたのよ。でも、お前と嬢ちゃんのことが気になってな。のどにひっかかってた魚の骨みたいだったけどよ。今日で、その骨もとれたってわけよ」
「そうか・・・心配かけて、すまなかったでござるな・・・でも、左之助、お前、一人で大陸へ?」
「あたりめーよ、一人でかっこよく旅立つぜ!」
「恵殿は・・・いいのか?」
「へ!恵だって、旅立ったじゃないか、会津へ。自分がいくべき場所へ、な。だから、俺もこうしちゃいられんってわけさ。大陸いって、もっともっと強くなってくるぜ!」
「そうか。しかし、弥彦は悲しむな」
「ばーろー。弥彦だってもうコドモじゃねえ。あいつもあいつの生きる道にいかねーとな。」
「そうだな・・・。左之のいうとおりでござるよ」
二人は顔をみあわせて、笑った。すかっとした笑顔だった。二人とも。
「嬢ちゃんとしあわせになれよ。今度こそ・・・しあわせになっていいんだぜ、剣心」
「ああ。薫殿といっしょなら・・・薫殿がそばにいれくれるなら、きっと大丈夫でござる」
「ああ。そうとも。で・・・どうだったんだよ?」
「どうって?」
「けっ!とぼけんなよ?嬢ちゃん、あれで、いいカラダしてるからなあ。もしかして、夜ぶっとおしかよ?」
「え・・・いや・・・」
「おいおい、今更隠すなよ?抱いたんだろ?京で?」
「いや、それは・・・違うでござるよ。まだ・・・」
「まだ!?抱いてねーのかよ?京まで二人っきりで旅して?何にもしなかったのかよ?」
「いや・・・何にもってわけではないが・・・とにかく・・・薫殿を抱くのは・・・婚姻してからと思っているのでござる」
「剣心・・・お前・・・・もしかして、やり方忘れたとか?」
「な!?そんなことはないでござるよ!」
「ここ10年の間に、ヤクに立たなくなったと??」
「なっ!?大丈夫でござるよ!ただ・・・」
「ただ?」
「大事にしたいのでござる。薫殿は初めてであろうし・・。大切なんでござる。大事な・・・ヒトだから。けじめをきちんとつけたいのでござる。」
「剣心・・・」
「それに、妻となった後は、毎晩でも愛おしむつもりでござるから」
「なっ!?・・・」
「だから、今は、英気を養っておくでござる」
そうにっこりと剣心に微笑まれては、もはや何もいえない左之助であった。
(なんか、すぐ、コドモできそうだぜ、この二人・・・)
弥彦に早く嬢ちゃんのとこ出て、ひとり立ちするよういおう・・・。左之助は心の中でそう決意したのであった。